第9話
自分の手に巻かれた白い包帯を、
こんなに綺麗に巻かれるなんて。
父や兄に自分で巻いたと言っても、信じてもらえないだろう。
他の誰かに手当てしてもらったことがバレてしまう。
それに、時計を見ればもう11時過ぎだった。
今から帰って昼食の支度をしても、「遅い」と怒鳴られるだろう。
かと言って、時短重視で簡単な昼食を用意したらしたで、「何故手を抜く」と怒られるのだろう。
それでも、自分の手に巻かれた白い、綺麗な包帯を見ていると、先程の
人に優しくされるのは、沙紀以外では久しぶりのような気がした。
しかし、こんな風に怪我をしていることは、沙紀や親戚にも教えていない。気付かれないように、最大限の注意を払っている。
それなのに、まだ数回しか話したことがない同級生に怪我を見られてしまった。その姉に、手当てをされてしまった。
どうしよう、と
湯気だったのか、と
「ココア好き?おいしいわよ。」
その笑顔は、やはり
しかし、彼女はまず無言で行動してから喋るのが癖なのだろうか。
「インスタントだからおいしいに決まってるじゃない。ねえ、みおちゃん。」
同時に
しかし、逃げられなかった。
あっという間に
彼(彼女)が何か気に障ることを言ったりしたら、耳を引っ張り上げるのが綾華の決まり事のようだ。
それはそうと、
「あ、あの!桜井くん、桜井くんのお姉さん!今日のことは……」
そして、ほぼ同時に、口々にこう言った。
「『さくらちゃん』か『れいちゃん』って読んでちょうだい。」
「そんな長い呼び方じゃなくて『綾華』でいいわよ。」
言動まで似ているとはさすが姉弟、と
自分の兄たちと自分とではここまで言動や仕草は一致しないだろう。
いや、違う。そうではなくて。今はそんなことどうでもよくて。
「今日のこと、誰にも言わないでください……」
そう言う時には、二人の顔は見れなかった。
優しくしてもらっておいて、こんなことを言うなど厚かましいとは思ったが、
今日のことを、どうしても父や兄に知られたくないのだ。
しかし、その頼みごとはあっという間に却下された。
「だめよ。警察や児童相談所に言います。あなたをこのまま帰す訳にはいかないわ。」
今、警察か児童相談所に報告されて、父や兄から解放されたとしても、今後はどうなるかわからない。
父や兄が今すぐ遠いところに行くわけでも、すぐに死ぬわけでもないのだ。
いつか必ず、見つかってしまう。
そもそも、怪我をした原因は誰にも話していないのに、何故綾華は警察や児童相談所などと言い出したのだろうか。
「なんでって顔してるわね。わかるわよ。そんな火傷を放置する親がいる?服の下もひどい傷があるんじゃない?」
「そ、それは……私がお父さんに言わなかっただけで……」
自分でも苦しい言い訳だという自覚はあった。
「みおちゃん、『お父さんが怒ってて、びっくりして火傷した』って言ってたわよね。みおちゃんがびっくりするぐらい近くにいたのよね、お父さん。」
今度は
はっきりとは言わなかったが、「近くにいた父親が
このまま押し問答を続けても、いつかボロが出るだけだ。
そして、きっと現状は変わらないだろう。
綾華が各所に電話を掛けるのを、
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