第8話
彼(彼女)の家に到着した。
家の前に、病院の名前が書かれた看板があった。それを目にした
「桜整形外科……?」
そういえば、兄達が「近所に病院が出来た」という話をしていた気がする。
スーパーからも近く、徒歩で来ることができる距離にあるこの整形外科を、彼女は知らなかった。
まあ、この近辺に用事ができたことがないので、仕方ないと言えば仕方ない。
全体的にきれいで新築のようであるし、最近出来た病院というのは、
「ここがアタシのおうちよ。アタシの高校入学に合わせて越してきたの。」
まだ新しいでしょ、と笑う
「
タイミング的には兄二人の都合も考慮されてはいなかったが、彼らが通学しやすい家かどうか、という部分は考慮されていた。
もちろん、
父兄に愛情を求めることはないし、仕方がないことだったが、今後は引っ越しの予定は無いと聞いていたので、高校は近場を選んだ。
そして、
それが、
――慣れたはずなのに。気にしないはずなのに。愛情なんかいらないのに。
心臓を冷たくする、この感情が何だったのか思い出せない
整形外科なんかで診察を受けたら、日常的に暴行を受けていることがバレてしまうのではないか、と。
もしそれを通報されたら?
通報されなくても、誰かに手当てされたことはわかるのでは?
そうなったときに、家族はどういう行動を取るのか?
先ほどとはまた違った意味で、
そして今度は、今心臓が冷える原因を知っていた。
恐怖だ。暴行を受けていることが他人にバレてしまったということを、家族に知られる恐怖。
桜整形外科に入ろうとする
「桜井君……私、やっぱり帰る、ので……荷物を……」
そう言いつつ、買い物袋を引くが、全く動く気配がない。
恐る恐る
彼(彼女)の厚意を無駄にしていることに耐えられず、
「みおちゃん。アタシは誰にも言わないし、アタシの家族は姉含め大人なんだから、あなたの不利益になることはしないわ。」
優しい
彼(彼女)に優しくされる理由など、自分にはない。しかもその優しさを拒否したのに、まだ優しくしてくれる。
父兄の恐怖と、
下を向いたまま、先ほどのスーパーの前のときのように動かなくなった
男性に怒鳴られただけで、あれだけ萎縮してしまったのだ。生物学上“男”の自分が腕を掴んで引っ張ったりでもしたら、彼女に余計な恐怖を与えるかもしれない。
二人していろいろ考え込み、桜整形外科の前で突っ立って動かなくなる。
そのまま数十秒程経過した頃、整形外科の横――
二人とも音に気付き、ドアの方を見る。
そこには、
年の頃は二十代後半だろうか。目付きは
背は平均より高く、身に纏っている白い膝丈のワンピースがよく似合っている。
その美人は、ツカツカと二人に近付いてきて、
「いったぁーい!!」
急な痛みに、
普段から裏声に慣れているから素で出るのか、裏声を上げるだけの余裕があるだけなのか。
それでも、痛がる素振りを見せているので、
「あ、あの……」
無言。終始無言。
無言なことがものすごく怖い。
「せめて何か言ってよ、お姉ちゃん!」
さすがに
その抗議に対して、仁王立ちになった美人はようやく口を開いた。
「女の子に暗い顔させたまま、何突っ立てんの。情けない。」
もう何がなんだかわからない
美人は自宅のドアを開け、
後から来ていた
少ししてドアが再び開き、額を押さえた
「お姉ちゃん、わざとでしょ……」
少し涙声の彼(彼女)と美人を、
しかし、美人はさっさと靴を脱いで玄関に上がってしまう。
三人でも少し余裕のあった玄関が広くなった。
それでも
上がってから、「やってしまった」と思うが、既に遅い。
「いらっしゃい。私は桜井
綾華と
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