第5話
四月も終わりがけの日曜日。
日曜日でも、
休日といえば、基本的に父親が家に居るのだ。用事がなければ兄二人もいる。
彼女は、父兄三人よりも早く起き、朝食を作ったり、その他の家事をこなさなければいけないのだ。
何故娘の
彼女の母親、梅林
その母親の死を、父や兄は
そして、
以前、親戚や沙紀から「
親戚や沙紀の心遣いは確かに嬉しいしありがたい。
しかし、
数年前に、親戚が
だが、すぐに父や兄に見つかり、「帰ってこなければ親戚が怪我をすることになる」と脅され、
それ以来、
沙紀との交流だけを心の支えにして、つらい日々を生きている。
メニューは、味噌汁に焼き魚、父兄それぞれ好みの漬物だ。典型的な朝食といった感じだが、日曜日の朝はこれと決まっている。何せ和食や魚は父の好物だからだ。
父の好みの薄味に仕上がるよう、分量に注意しつつ朝食を作り、食卓に並べる頃、兄二人が起きてくる。
今日は用事もバイトもなかったらしい。
父親が厳しいので、寝巻きのままということはない。
それでも寝癖はついているし、あくびをしながらで、若干のだらしなさは否めない。
兄二人は
兄二人は食卓で同じ顔を並べ、雑談を始める。
大学の話、近所にできた病院の話、テレビの話、バイトの話。
その話に
兄の
弟の
二人とも普段はバイトにサークルにと忙しいご身分だが、今日は二人とも何も用事がないらしい。
少しして、父親がダイニングに入ってくる。
その瞬間、空気が張りつめる。父親は
「おはよう、父さん」
「おはよう、親父」
兄二人が同じタイミングで、父親に挨拶をする。
ちなみに、「父さん」と呼んだのは英斗で、「親父」と呼んだのは聖斗だ。
父親は、父親扱いされれば、呼び方にはこだわらないらしい。
「ああ。」
返ってきたのは短い返事のみ。
父親はさっさと座り、食事を始める。
父親が食事を始めたのを見て、聖斗と英斗も朝食に手をつける。
誰も「いただきます」すら言わない。
三人はそれぞれ黙々と食事を続ける。
父親の厳しさのおかげで、食事中にお喋りをすることすら許されない。
三人が食事をしている間、
味噌汁の具に使ったので、豆腐がない。キャベツも昨日使いきった。あとは何がいるだろうか。
父親は厳しいが、稼ぎはいい。お金に関しては苦労することがない。そのため、1ヶ月の食費は四人家族にしては多くもらっている。
それでも兄二人はよく食べるので、満足させるためには少しだけ節約する必要がある。
昼は多めに肉を使って兄二人のご機嫌でもとろうか、と
それに
「
同時に、体はすくみ動かなくなる。
「なんだこれは!」
父親の怒鳴り声がキッチンに響いた。
彼は味噌汁のお椀を持っており、その手を振りかぶる。
体が動かないので、避けることすら叶わなかった。
味噌汁のお椀が
ついさっきまで沸騰していたものだ。
直撃した左手はすぐ真っ赤になり、服に染みた分はゆっくりと
「……っ…………!」
「濃いじゃないか!また分量を間違えやがって!なんで聖美のようにできないんだ!聖美はお前のせいで死んだんだぞ!!」
しばらく怒鳴ったかと思うと、今度は手をあげる。
顔や手足は殴らない。服で隠れないから。腹や背中を殴られ、
端から見れば、異様な光景だが、聖斗と英斗は気に止めず食事を続けている。
別にこの家では珍しくないからである。
もっと言えば、兄二人も
ひとしきり殴る蹴るを繰り返したあと、「片付けておけ」と吐き捨て、父親はダイニングを出ていく。
兄二人も食事を終えると、ダイニングを後にする。
しばらく冷やしていると、聖斗がダイニングに戻ってきた。
片付けをまだしていないと父親に告げ口されたら、また殴られてしまう。
袖を軽く絞り、片付けを再開した
そこから保冷剤を取りだし、
「お前さ、火傷はやめろよ。萎えっから。」
「ご、ごめんなさい……」
「あー、味噌汁くせー。さっさと冷やして片せよな。親父にはなんか弁当とか買って来てやっから。」
「え……いや……自分で行……」
自分で行くから大丈夫、と言いかけたところで、聖斗が
「お前が行ったら誰がここ片すんだよ。親父の機嫌は俺が取ってやっから、片付け終わったら俺の部屋に来い。わかったな?」
嫌だとは言えなかった。
まだ熱を持つ左腕に、ジンジンと痛む体。床に飛び散った味噌汁。
この後、兄から受ける行為。
痛みはもう何年も続いているので慣れたものだ。きっと体が自由に動いたとしても、悲鳴もあげずに耐えることができるだろう。
それでも痛みは感じているので、やはり暴行の度に体はすくんでしまうのだが。
しかし、兄から受ける行為はここ数ヶ月で始まり、徐々にエスカレートしてきている。どうしても慣れず、吐き気がするほど気持ちが悪い。
それでも、はじめの命令に従わないと、後で捕まったときがひどいのだ。
聖斗も昼食の時間が遅れると父親がどうなるかや、
兄に捕らわれる時間を少しでも減らそうと、
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