第2話
「ちょっと大丈夫?変なとこでも打ったのかしら?」
見た目はけっこうワイルドだが、裏声で、女の子みたいな口調で、片手を頬にあてているという仕草も女らしい。
こういう人のことを、世間ではオネエというんだったかな、と
しかし、一向に反応しない
「ねえ、大丈夫?どこか打ってない……?」
「あの……だ、大丈夫です。ごめんなさ……余所見してて……」
しかし、どんなに優しくても男は男だ。
少し間が空く。一体どうしたんだろう、気分を害してしまったのかもしれない、と
「気にしないで。ごめんなさいね。」
彼(彼女)は悲しそうな笑顔を残して、学校の方向へと進み始めた。
――昼休み
午後の小テストの予習をしながら、
「なんで悲しそうだったんだろう」
「何?何の話?」
彼女の独り言に、前の席でスマホを触っていた女子が顔を上げて振り向く。
彼女は
沙紀は、
そんな彼女の側にいることを、
そう、自分たちはまだ高校に入学して1ヶ月未満だ。だから今朝の彼(彼女)のことを、沙紀に聞いても知らないかもしれない。そもそも学年すらわからないのだ。
「えっと……今朝不思議な人に会ったというか……」
不思議な人、というのも失礼な言い方かもしれないが、端的に「オネエ」と呼んでしまうのも違う気がした。
「不思議な人?オネエかな?」
「知ってるの?」
思わぬ返しに、
「
「興味ないとかじゃなくて苦手なだけで……沙紀ちゃんは知ってるじゃない……」
私の悩みを知ってるくせに、と
ちなみに、
いや、違う。そうじゃなくて。
「オネエの人のこと知ってるの?」
「知ってる。彼はちょっとした有名人よ?」
綺麗な顔で首を傾げる沙紀に、
そして彼女の話によれば、彼(彼女)は隣のクラスの
「さくらいれい……」
「そう、“れい”の字は
それはまた、偶然にも、といった感じだ。
そしてその桜井
いかにも不良です、という見た目なのに、料理や裁縫が得意で可愛いものが好きとかなんとか……まるでオネエの鑑だ。
その一方で、やはり見た目通り中学の頃から煙草を吸ってるとか、既に上級生と喧嘩して勝ったとか、悪い噂もちらほらと。
後半の噂によって、
彼女の親兄弟に代表して、男の人はやはり怖いものだ、と。
君子危うきに近寄らず。彼(彼女)と関わることはないだろうし、関わることもやめよう。
「ありがと、沙紀ちゃん。私はやっぱり男の子には近付かないよ。」
「……そう。
そう言って、沙紀は立ち上がり、自分の席へと戻っていった。
その顔が少し悲しそうだったことに、
それでも、
――ごめんね、沙紀ちゃん。私は沙紀ちゃんにも言えない秘密があるの。その秘密がある限り、男の子と関わることはないと思うな……
予鈴が鳴る。もうすぐ五限目だ。
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