第3話壺の中身
今回の依頼はある旅館の女将さんからで、代々受け継がれてきた壺が最近勝手に動くそうだ。
そこで梓さんにお祓いをして欲しいと依頼してきた。
──「こんにちは。これがお願いしたい壺です」
「はい。すいません、今如月は準備してまして。もう少ししたら来ると思います」
梓さんは少し…いや結構時間にルーズで依頼人との約束の時間までについたことはほぼない。
むしろ時間通りに来る方が衝撃的だ。
「すいません。お待たせいたしました。如月 梓と申します」
「あ、こちら依頼人の富司篠江さんです」
梓さんは初めましてと言っていつもの座布団の上に正座した。
「それでこれが勝手に動く壺ですか?」
「そうです。宮本さんにもお話したのですが掃除をしていたらたまたま壺を見つけてあまりに汚れていたので綺麗にしたんですがその晩以降少しずつ動いていて…」
富司さんは壺を見ながら小さな声で気持ちが悪いと言った。
「なるほど。わかりました。それではこの壺の中に封印されている妖はお祓いしても宜しいですか?」
「あ、妖…?ほんとうにいるんですか?」
「はい。今はだいぶ弱っていますが放っておけば力を取り戻し壺から出てくるでしょう」
「そうですか…分かりましたお願いします」
「承りました。宮本くん」
梓さんに呼ばれ僕は相棒としてのもう一つの仕事、陣が書かれた紙を祓い場にひいた。
これから僕が最も美しいと思う梓さんの姿が見られる。
梓さんが陣の真ん中に座り御札を真正面におく。
そして壺の蓋を開けた。
僕の目には見えていないけれどきっと妖が出てきているんだと思う。
梓さんが御札に口付けをする。
口付けと同時に梓さんの真っ直ぐで艶のある黒髪が靡く。
この瞬間が僕にとってたまらなく美しいと感じる。
梓さん以外何も見えていないから。
黒髪が梓さんの肩にのると梓さんが蓋を閉めた。
「終わりました」
「…あっ!はい、ありがとうございました」
富司さんも梓さんに見とれていたのか、いやきっと見とれていただろう。
少し間を開けて返事をした。
「後日請求書をお送り致します」
「はい。お世話になりました」
富司さんが帰ったあと僕は陣を片付け梓さんの元へ行った。
今回はどんな妖だったのかを聞きに。
僕は妖の話が好きだ。
実際に見えると厄介かもしれないけれど僕には見えないから梓さんが教えてくれる様々な妖の事を知り、少しでも梓さんに近付ければいいなとおもっている。
梓さんは妖たちのことを決して好いている訳じゃない。
でも理不尽に妖を殺してはいない。
今回だって使っていた御札が隠世、つまり妖たちが住む世界へ導く御札だった。
本来使用する御札は妖の存在を無きものとする御札で隠世へ導く御札ではない。
梓さんが隠世へ導くときは祓われる妖が理不尽に封印されていた場合のみ。
きっと今回の妖は梓さんに助けを求めたのだと思う。
「宮本くん?ぼーっとして大丈夫?片付けありがとう。」
「あ!はい!大丈夫です!お疲れ様です。今回の妖はどんな妖だったんですか?」
「あぁ…可哀想な綺麗な妖だった。本当に綺麗な銀色の髪の毛をした女の人」
「そんなに綺麗だったんなら僕も見てみたかったです。でも…」
「でも?」
「あ、いやなんでもないです。また今度詳しく聞かせて下さい!今日はもう暗いんで帰ります」
「そう?わかった気を付けてね」
「はい」
─でも梓さんより綺麗な女の人はいないですよ。
僕だけが知る梓さんは誰にも見せたくない。
こんなことを思っているなんで絶対知られたくないけど。
きっと僕は独占欲が強い。
【壺の中身_end】
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