第2話 僕の祖父が動き始めました。

何か昨日から視線が多くなった気がする。まあ、あの式神や十二神将の事もあるし当たり前だけど。

「安倍君」

「は、はい」

恐る恐る後ろを見るとやっぱり知らない先輩だった。最近こう言う事が多くなった気がする。

「これ、あげる」

「えっと、ありがとうございます」

顔を赤くしてその先輩は走って行った。

「大変そうだね、真君」

「あ、秀歌さん。最近、こう言うのが多くて。なんでこんな事するんでしょうか」

「それは、君が安倍家の正当な跡取りだからじゃないかな?十二神将を手に入れているし、御家的にも安倍家は上位だからね。皆君に媚を売っているんだよ」

そう言う事か。だから、皆の目が僕をいつも捕えていると。

「まあ、それだけじゃないと思うけど」

「え?」

「ここからは自分で考えなさい。じゃあね、真君」

そう言って秀歌さんはそこから居なくなった。


「さて、もう帰るか」

本当なら今日も部活があるのだが、この前の一件以来狐子が部活にでる事を許可しないのだ。その為、僕は家に帰る事になっている。

「ほんとにお前は過保護だな」

「喧しい!私は真様の身を案じているのだ!!」

「お前なぁ、このまま退魔部に行かなかったら俺は実戦経験が低いだろ!?」

「それでよいではないか、真様が必要なのは私一人だ!お主はただ拾われただけ」

「狐子!」

僕は思わず大きな声を出してしまった。だが、僕はこの会話を聞くに堪えなかった。

「そんな言い方をするんじゃない。緒月だってそんな事は分かっていると思うよ。だから、仲良くやりなさい」

「……分かりました」

うわー。とても不満げだけど。取り敢えず話題を変えよう。

「そう言えば十二神将だっけ?それってどうしたら眠りから目覚めるの?」

「ま、力を解放したら眠りから目を覚ます。と言っても1人はもう目覚めてるがな」

僕は少し。いや全然意味が分からなかった。


僕は母さんに言われて祖父の家に行った。祖父が僕の顔を一目見たいらしいのだ。

「真様、何かあったんですか?」

聞いたのは狐子だった。僕が浮かない顔をしているから不審に思ったんだろう。

「まあね。僕、祖父が苦手なんだよ。なんか、変な感じだから」

「ああ」

狐子はとても遠い所を見る様な目をしていた。そう言えば、狐子は先祖様と知り合いだったよな。

「ねぇ狐子。僕のご先祖様ってどんな方だったの?」

「え!?えーっと。まあ、ふざけた人ですね。頭の回転は速かったのですが、くえない人でやはり一目置かれた存在でした。私の子孫も大変だったと聞いております」

やっぱり、狐子の先祖も苦労してたんだ。

そして話しているうちに祖父の家についた。祖父の家は人がいっぱいいるし、家もでかい。僕の部屋もあったみたいだが僕が母親達と暮らしたいと駄々をこねた為、今は両親と住んでいる。

「おお、来たか。真や!」

祖父は僕にダイブしてきた。正直、祖父も歳だ。だが、このまま避けなかったら一生はがれない気がする。

「狐子。後ろについて」

「え、分かりました」

僕は前を向き、祖父を避けた。そして、狐子が祖父をキャッチした。

「おや。真、飛び込んで来ないのかね?」

「お爺ちゃん、僕はもうそんな歳じゃないよ。いい加減それ、止めて」

「うーん。……はて、この毛並みは」

僕はすっかり忘れていた。祖父は根っからの狐好きと言う事を。

「おお、お主が紺の娘か。いい毛並みよのう」

祖父が言っていた紺とは、祖父の式神であり狐子の母親である。今は私用で留守らしいが。

「ま、真様!お助け下さい!!」

「お爺ちゃん、狐子が嫌がってるよ」

「まだやりたいのじゃ」

僕ももうイライラが止まらなくなってきた。

「……お爺ちゃん」

僕がそう言うと祖父は恐る恐る僕を見た。

「いい加減にしないと、眠りつかせるよ。永遠のね」

祖父はその言葉を聞いた途端、僕に頭を下げた。

「すまん!ちゅーか、真よ。お前、段々芦架に似てきてはおらんか?」

「よく言われるけど、これはお爺ちゃんのせいだと思うよ」

狐子は威嚇をしながら僕の後ろに隠れた。

これでも祖父はとても強い陰陽師なのだ。安倍清明と同等かもしれないと言われている。これを僕はつい最近聞いた。

「真、お主2体目の式と契約したんだっての」

「うん。出てきて、緒月」

そう言うと僕の後ろに緒月は立った。

「ほう、これが茨木童子。わしも初めて見るが目つきが悪いのぅ」

「……真様、あいつ誰」

「僕の祖父だよ。まあ、あんな感じだけど世界最強の陰陽師らしいよ」

「あれが?」

緒月は半神半疑らしい。まあ、あんなふざけた人を見れば誰だって思うに決まっている。僕だって聞いた時は疑っていた。

「お爺ちゃん。これだけじゃないんでしょ、用事って」

「ほう。真、お主何故そう思う?」

「お爺ちゃんはいつもそれだけの用件で呼ぶ人じゃない事くらい僕は分かってるよ。どうせ、この家に来ないか?とか、安倍家の陰陽師選抜に入んないかとかそこんとこでしょ?」

僕は適当に言ったつもりだったが、祖父は図星な顔をしていた。

「真、お前成長したんだな」

祖父はそのまま泣いてしまった。

いやいや、何でこれだけで泣くんでしょうか!?僕にはまったく意味が分からない。確かに僕は人見知りで人と会話をすることも目を合わせることだって出来なかった。もちろん祖父も同様だ。今の僕は全然話せるし、人の考えていることだって予想で結構分かる。でも、それだけで泣くか!?普通!

いや、考え直そう。この人は元々普通の人間じゃない。例えるなら、狸ジジイだ。その類の人間は普通に相手したってしょうがない。

「あー、はいはい。で、僕の言ったののどっち?」

「どっちもじゃ。真、お前は随分強くなった。なら、あの家にいるよりもこっちに来た方がよくはないか?」

「……お爺ちゃん、どうして僕が小さい頃ここにいるのを拒んだか分かってる?」

「それは両親と離れたくないからじゃろ?」

「それもある。でもね、理由はもう一つあったんだよ。それは、お爺ちゃん。あんただよ!!」

祖父は驚いたような顔で「なんと!」と言っていた。

「僕はお爺ちゃんが怖くてしょうがなかったんだよ!!今だって、それは変わらない。だから、お爺ちゃんの家に来る事は絶対にない!!」

僕は真顔で断言した。

「そ、そんなー!!」

「んな大げさな」

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