第3話 学園最強の人と従姉でした。

「だからあんなすごい物を出せたんですね」

「は、はあ」

そう言うと、何かを思い出したかのように先生は顎を持って考えていた。

「ど、どうしたんですか?」

「いえ、私の記憶が正しければ芦架さんは安倍家に嫁がれたので姓が変わっていたはずです。そしてその姓は……」

「蘆屋芦架」

後ろから声が聞こえたので後ろを見るとそこには蘆屋詠歌さんが立っていた。

「芦架さんは私の叔母。つまり、私達は従姉弟同士って事だよ」

「あ、蘆屋先輩!?」

「お姉ちゃん」

「え?」

「詠歌お姉ちゃん」

そう言って僕の頭を撫でた。

「え、詠歌姉ちゃん」

「んー!!可愛い!」

そう言うと、詠歌さん基、詠歌姉ちゃんは僕の頭を抱きしめた。

「やはり。安倍君、君は芦屋家と安倍家の血を受け継いでいるんです。だから、あんなに強い力が出せた。そう考えれば辻褄が合います」

「辻褄があってよかったです。それで、この人を剥がすの手伝っていただけますか?」


30分後やっと剥がれてくれて僕は家に帰る事にした。

「ただいまー」

「おかえり、真。教室で友達できた?」

「……」

僕はジッと母さんを見ていた。この人が本当に首席で卒業したのか?

「何?見つめちゃって。何かあったの?」

「母さん、芦屋家の人間だったって本当?」

そう言うとギクッと肩が震えた。

「ど、どこでそんな事を?」

「蘆屋詠歌先輩から。その様子じゃ、本当みたいだね。母さん、優秀な陰陽師だったんだってね。聞いたよ」

「……」

汗が母さんの頭をダラダラと流れていた。

「正直、母さんが首席で卒業なんてあり得ないと思ったけど。ま、それもそれで誇れるか」

「え?」

僕は正直どうでもよかった。いや、この事は過去の事だから気にしてもしょうがないって訳だった。

「何でもないよ。夕飯何?」

「えっと、今日はポテトサラダと鱈のクリーム煮よ。真の好きな物だったわよね?」

「うん。美味そう」

「ただいまー」

丁度父さんも帰って来て、3人で食べた夕食は久々に美味しいと感じるのだった。

「……眠れない」

「眠れないのですか?」

そう言って出て来たのは小さな女の子だった。

「え、誰!?どこから!?」

「えっと、この姿の方がコンパクトでいいと思っていたのですが元の姿に戻りますね」

そう言って煙からもう一回出て来たのは狐耳の女性だった。

「あ、あなたは!」

その姿は試験の時に手伝ってくれた女性だった。

「私はようこ。よろしくお願いします。真様」

「ようこさん。結構現実的な名前ですね」

「あ、違います。私の漢字は妖狐。つまり、妖怪です。妖怪と言っても、私はあなたを主として生きているので式神になります」

とても分かりやすい説明で僕は呆けた顔になってしまった。

「本日こちらに馳せ参じたのは、真様の持っている御守りを強化するためです。そこにある御守りを私に下さい」

僕は持っていた御守りを妖狐に渡した。

「……掛けまくも畏き、神社かむやしろの大前おほまへを拝をろがみ奉たてまつりて恐かしこみ恐かしこも白まをさく大神等おほかみたちの広ひろき厚あつき御恵みめぐみを辱かたじけなみ奉たてまつり、たかき尊たふとき神教みをしへのまにまに天皇すめらみことを仰あふぎ奉たてまつり。直なほき正ただしき真心まごころもちて、誠まことの道みちに違たがふことなく 、負おひ持もつ業わざに励はげましめ給たまひ。家門いへかど高たかく身健みすこやかに、世よのため人ひとのために尽つくさしめ給たまへと恐かしこみ恐かしこも白まをす」

この祝詞を聞いた時、僕は何かに包まれるような、そんな感じがした。

「これで大丈夫です」

「……あのさ、何で僕こんなの持たされてるの?」

「それは、真様の霊力がお強いからでございます。霊力が高いと不浄の類が近寄って来ますゆえ、芦架様と績輝様が結界を張られたのです。御守りを取って見て下さい」

僕は言われた通りに御守りを外した。するとまた金色の光が僕を包んでいる。

「これは……」

「これは精霊です。真様は精霊に愛されています。真様は霊力も高い。だから、不浄の者に狙われやすいのです」

やっぱり分かりやすいな。妖狐の言い方って。

「妖狐ってちょっと距離感を感じるんだよね。名前とか無いの?」

「私にはその様な物ありません。真様がつけて下さると本当の式神として生きていけるんですけど……」

「うーん。じゃあ、狐子ここでどうかな?」

「狐子。ありがとうございます!!」

狐の子って意味で狐子と僕は名付けた。

次の日、僕は詠歌さんに追いかけ回されていた。

「真くーん!ちょっと待ってよー」

「嫌です!何されるか分かったもんじゃありません!!」

本当にそうだ。僕は正直、この人が苦手だ。苦手過ぎて、反射的に逃げてしまう。だが、校則で他学年のフロアには行ってはならないと決まっている。つまり、階段を上って教室前まで走れば回避できる!!

だが、考えは甘かった。

「やあ、真君」

「な、何で。さっきまで僕の後ろに……」

「んー?私はこの学園最強の陰陽師だからね。瞬間移動くらいはできなくちゃ」

「それ、陰陽師と関係あるんですか?」


僕は教室でグッタリしていた。流石に、あの人といると疲れる。

「お前、結構疲れてるな。ま、あの蘆屋詠歌に追いかけられてるんだし。つーか、先輩から聞いたんだけど会長に追いかけられて未だ捕まってないのお前だけだとさ。先祖が安倍清明だし、何から凄いな。お前」

「まあな」

何でこんな厄介な事が続くんだか。それに僕が清明の子孫なんて……ん?僕、晴鬨に先祖が清明って言ったっけ?この人、ちょっと不思議だ。

「ん?どうした」

「いや、何でもない」

考えすぎか。ま、誰にだって秘密はあるよね。


「真、お前何部に入るんだ?」

「え?部活なんてあるの?」

「あるぞ。それに強制参加だ。お前、聞いてなかったのか?」

「こんな疲れてる状態で先生の話を聞ける訳ないよ。何部があるの?」

そう言うと晴鬨はパンフレットを出した。

「えっと、一般的には運動部だな。弓道、柔道、バスケ、サッカー、野球。定番系。でも、この学校独特の部活もあるみたいだな。札部、悪霊研究部」

札部って何!?と突っ込みたかったけど、聞いても分からないだろうな。

「真君はもう退魔部に入るって言ってるもんね」

「え?」

入って来たのは詠歌さんだった。胸を押しつけて僕に聞いてきた。

「ね?」

「僕はそんな事言ってませんよ」

そう言うと詠歌さんは僕を教室の角に連れて行って、胸から紙を出した。

「これ、クラスの皆にばらしてもいいの?」

そう言って出したのは写真だった。

「!?な、何でその写真をあなたが!!」

その写真の正体は僕が幼少期の時の写真だった。しかも、母親に強制的に着せさせられた女装姿。

「昨日、芦架さんに貰ったの。で、どうするの?退魔部に入る?それとも、この写真を見せて学園に来れなくなる?」

この人は悪魔だ。こんなの答えは決まってるじゃないか!!

「おい、どうしたんだよ」

「あ、あはは。僕、退魔部に入る事にしたんだった。いやー、忘れてた」

「そうか。ならいいんだけど」

「そう、じゃあ今日の放課後部室に来てね」

「は、はい」

あの人、色んな意味で最強だな。

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