4.アミと知り合った頃、

 アミと知り合った頃、僕には性的な交際をしている女の人がいた。愛だの恋だのでなく、唯1人でいる寂しさや、性欲を満たすだけの関係。彼女らは僕よりも年上で、1人住まいの大学生やOL達だった。


 その頃の僕は、バンドでギターを弾いていて、月に1、2回のライブをしていた。そして、ライブが終わった後、誘われるままに彼女らのアパートに行き、そして寝た。


 愛情なんて求めなければ、男と女の関係なんて簡単に出来てしまう。



 だが、アミとはそうゆう関係ではなかった。


 僕が17歳に成って少し経った秋、1度目の家出をする、未遂だったが。アミと知り合ってから、9ヵ月位の頃。ライブをした後、1人で上京する予定だったが、なぜか、その会場に両親が現れた。


 「りょう君が家出をするかもしれない。」と中学の時の連れが親に連絡をしたらしい。




 その日、アミと僕の両親は初めて顔を合わせたのだが、ちゃんと紹介はしなかった。ライブの後、僕は近くの駅までアミを送って行った。


 その間、両親は僕達の後ろを距離を置きながら歩いていた。


 アミと駅で別れた後、しばらくして、

「彼女か?」と父は僕に聞いたが、


 「ただの友達。」とだけ答える。


 その頃のアミは、僕にとって好意の持てる友達だった。しかしその家出未遂の後、僕らの距離はとても早く近くなっていったと思う。

 

 アミがライブハウスに顔を出す数が増え、電話や手紙でのやり取りが増えた。それ以外でも、月に1度は何処かで合っていた。


 アミと過ごす時間が増えるにつれ、年上の彼女達との時間は、少しずつ減っていったが、


 「彼女が出来たの?よかったね、君にはちゃんとした彼女が必要だわ。でもね、私には君が必要な時があるの、わかるでしょう。君さえよけば、何時でも来て欲しい。彼女には、わからない様にするから、お願い。」と言った人もいた。


 それでも僕は、亡くなった彼女を忘れられないままに、アミに心を開き始めていた。




 鍵のかかっている青いスーツケースとギターケースは、1階下の2等室に置き、乗客はあまりいなかったが、子供連れの家族に、


 「1人なので、僕がいない時は、荷物を見ていてもらえませんか」と頼む。


 東京行きのフェリーの甲板に上り、バーボンウィスキーを飲みながら売店で買ったポップコーンを食べ、何かやり残した事はないかと考えていた。


 海に落ちていく日が、やたらと綺麗な夕焼けを創りだす時間だった。



 生活指導の教師には嘘を言って、取り上げられていたバイクの免許書を返してもらった。


 担任の教師には退学願いを手渡したが、

「これは、受理できんばい。卒業まで我慢できんとか。もう一回考えんさい。これは俺がしばらく預かっとくけん。」と言われた。


 両親には,

「今行かないと、手に入れられない事が多すぎる。探さないで欲しい。落ち着いたら連絡する。」という手紙を残した。



 アミには、むこうに付いたら連絡いれると、港の待合室から電話をかけた。


 「身体には気をつけるっちゃよ。それと、女の子と寝る事は気にせんけど、妊娠だけは避けてね。それから、来年には出て行くけん、その時は、私だけを見て欲しいっちゃ。じゃあね、、、、元気で、すぐ行くからね。」と寂しそうだが大きな声で言った。



 もう7月だとゆうのに、日が沈んでしった後は、さすがに肌寒い。


「やっぱり、海の上やなぁ、、、」と独り言を呟いた。



 船室に戻り、子連れの家族に礼を言い、ヘッドフォーンでショパンのノクターンを聴きながら、横になった。小学2、3年生位の子供たちが、初めての船旅なのか、とてもはしゃいでいたが、少し酔っぱらたのと、フェリーの緩やかなゆれが、僕を眠りの中に引き込んでいった。


 次の日の早朝、船は神戸に着き、いくらかの人達が入れ変わったが、僕は寝転んだまま、残してきたアミや、亡くなってしまった彼女の事をぼんやりと考えていた。




 いろんな本を読みあさっていた中学2年生の僕が、1つ年上の彼女と知り合ったのは、僕がいた水泳部に彼女の妹が入部した日の夕方だった。


 アキコ、それが彼女の名前。



 練習で遅くなる日は、男子部員が女子部員を家まで送って帰るとゆう部の決まりもあったが、けっこう近い所に住んでいる事が分かったので、その日から僕達3人は、一緒に帰るようになった。


 驚いた事は、アキコ先輩が僕の名前を知っていた事だ。 


 なぜ、自分の名前を知っているのかと聞くと


 「よく、難しそうな本を借りにくるでしょ。」と二ッコリと微笑んで答えた。


 彼女は背が高く、腰の辺りまである長い黒髪は、色白の肌をそれ以上に真白く浮びあがらせていた。先輩は、図書委員の仕事が終わると、プールの脇にあるベンチで本を読みながら、練習が終わるのを何時も待っていた。


 下校中、色々な話をした。本や映画や音楽や、、、


 僕はすぐさま、恋に落ちた、それが初恋。


 登校するのも、いつの間にか一緒になり、休みの日も、近くの公園で会ったり、散歩したりするようになった。


 アキコ先輩からアキと呼ぶよう様に成るのに、そんなに時間はかからなかったと思う。


 そして、出会って半年後、僕達は放課後の図書室で、1つになった。



 だが、病弱だったアキの持病は悪化し、僕が高校に入学した春、入院する事になった。


 病名は、骨肉性白血病。手の打ちようは、なかったらしい。




 日差しの眩しい、とても暖かい10月の日曜日、僕は、病院にいるアキに逢いに行った。介抱に就いていた彼女の妹は、気をつかったのか、


 「ちょっと家に帰って、洗濯物とか取って来るけん、姉ちゃん。それと、変な事せんようにね、りょう先輩。」と言って、私たちを2人っきりにしてくれた、と言っても、同室の患者さんが2人いたのだけれど。



 僕は、アキの唇にそっとキスをして、ベッドの横に腰を掛けた。


「りょう君、逢えて、とても、、、うれしい」と力なく言うアキ。


 僕は、出来る限りの笑顔をつくり、学校やバイトの事、バンドの初ライブの日定が決まった事とかを話した。アキは何時もの様にとても嬉しそうにニコニコしながら、僕の話を聞いていた。

 

 「りょう君のライブ見てみたいな。」


 「今度来る時、ギター持ってくるよ、たぶん来週。」



 そうしてその時間は、一瞬にして過ぎていった。


 アキが、

「また、散歩しながら、お話したりしたいな。でも、、、でも、もうだめかもね、、、りょう君、、、まだ私の事、、、好き?」と力なく寂しそうに聞く。


 「とても、とても愛してるよ、アキ。」と僕が答えると、


 アキは、とてもうれしそうに微笑み、

「私も、、、」と言って、ゆっくりとその眼を閉じた。


 僕の手を握るアキの手に力が入るのを感じたが、その力は、すぐになくなった。



 「りょう君、、、まだ私の事、、、好き? 私も、、、」それが、アキの最後の言葉だった。


 その安心しきった、微笑みのまま、アキは永遠の眠りについた。




 東京の港についた僕は、いつもの様にポップコーンを朝食代わりに食べ、新宿駅に向かうバスを待った。予定より3日も早く着いてしまったので、今からどうやって時間を潰そうかと迷う。


 スーツケースをバスの下にほうり込み、ギターは手持ちでバスに乗った。そして、新宿駅に着いた僕は、スーツケースをコインロッカーに入れ、その辺りをうろつく事にした。


 ごみごみした、繁華街を歩き、その頃有名だったライブハウスの前に着く。思ったより小さな所だなと思った。もちろん鍵はかかっていたが、中からは樂器を鳴らす音とがする。


 壁に貼り付けてあるライブのチラシを見ていると、いかにも Punk な4人が中から出てきて、タバコを吸い始めたので、この辺に樂器屋かギターの弦が買える所はないかと聞いたら、


 「今から樂器屋に行くけど、ついてくる?」と誘われた。


 樂器屋に向かう途中、

「何してるの?」と聞かれたので、


 「高校中退して、博多から出てきてん。今朝ついたばかり。来週からバイトが始まんねんけど、時間がちょっとあるから、、、」と答える。

  

 紫モヒカン男が

「君、ギターどの位弾けるの?」と興味深そうに聞く。


 「9歳から始めたから、、、1、2回合わせて弾いたら、たいていの曲は、アドリブで。さあけど、めちゃ速いスピードメタルみたいのは、ちょっと、あかんかな。」


 もう1人のピンピン頭が、

「君、さっき博多からって言ったでしょう?その関西弁は?」と聞くので、


 「12まで大阪で、それから博多で、今はここ。実は俺、新宿生まれやねん。」


 「どんな曲、弾くのかな?」とぴんぴん頭。


 「小学の時はブルースとか Stones とかで、その後は、どっぷりと、めんたいビィート。ほんで、14の時、Pistols と Motorhead 、それからは、なんでも。博多のバンドって、殆ど初期 Punk のノリやし。最近はジャズなんかも、そんなかんじ。」


 そうこうしてるうちに、樂器屋に着いたので、礼を言って彼らと別れた。



 楽器屋をしばらくうろついた後、バイト先に、

「早く東京に着いてしまったのですが、早めに行ってもかまわないでしょうか?」と電話を掛けたら、


 優しいそうな声の男の人から、

「いつでも、いいですよ。」という返事。




 その日は、カプセルホテルに泊まり、翌日の朝早く、軽井沢に向う電車に乗った。

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