第2話 (はじまり)一瞬の出来事

高校1年の夏、私と淳は文化祭の買い出しで高校から最寄駅に向かっていた。


この頃はまだ友達だったが

中学から同じ高校にあがったため仲がよく、

おまけに同じクラス、同じ文化祭実行委員となり、周りからチヤホヤはされていた。


実を言えば私は中学から気になってはいた。

でも、淳は全くそんなこと思ってもいないだろう。


淳は身長が高く端正な顔立ちをしているため、 

先輩女子からの人気はすごいが、

口数も少なく、愛想がないので入学からしばらくして慣れてきた同級生たちからは何を考えているのかわからないやつだと思われ始めていた。


そんな淳が喋る数少ない相手ということもあり、ちやほやされている部分もある。

2人になればよく喋るのになあ...。


「ねえ、なんでみんなの前ではあんなツンケンしてるの?」


「別にツンケンはしてないよ、無駄に話すのがあんまり好きじゃないだけ」


改札前についた。


「ふ〜ん、あ、チャージ足りないや!ちょっと待ってて」


「ん、先ホーム行っとく」


「えー、待っててくれないのー!ま、いいや、すぐ追いかける!」


チャージを終え、改札を抜けると今からホームへの階段を降りる淳の背中が見えた。

電車がホームに到着しそうな音が聞こえる。

あ、電車来ちゃう!

淳に追いつこうとダッシュした。


「よっ!おまたs..っ!!!」

階段の途中で淳の肩に触れ、顔を覗き込むような体勢をとった瞬間、左足を踏み外した。

ビキッと嫌な音が体内に響く。

淳の方を向きながら後ろ向きに落ちていく。


2人で手を伸ばすが、その距離は離れていくばかりだ。


時が止まったようにゆっくり落ちていく感覚だった。


「...っっっ!!!!!おい!!!」

ドン!


淳の声が聞こえたと同時に着地した。

リュックがあったおかげで少し衝撃は和らいだとは思うが、お尻から落ち、そのあと軽く頭を打った。


「いっっっ.........」

「愛理!!!!!」

淳が駆け寄ってくる


「やばい、躓いちゃった...笑」

「笑ってる場合じゃないだろ!お前頭打ったよな?救急車呼ぶぞ。」


「え??そんな大げ


「すみません!どなたか救急車お願いします!!」


さな...」


平日の真昼間、周りに人はいなかったが、幸い近くに駅員さんがいて、すぐに救急車を呼んでくれた。


「何かあってからじゃ遅いんだよ!どこが痛い?」


「淳大袈裟すぎ。笑 全然大丈夫だよ、 普通に立てるし、よっ...っと」


右手で状態を起こし、両足を曲げ力を入れようとした

「おい、立たなくていいかr...」


「い....っっっっつた!!!!!」

感じたことがないほどの激痛が走る。

左脚の膝が...曲がらない...

落ちる寸前に踏み外した左足首と膝を大きく捻っていたらしい。

あの時のビキって音はこれか...

咄嗟に左脚を抑えるとすごく熱を持っている。


「おい!何が大丈夫なんだよ!ちょっと脚、見せて」


「じゅん、ひざ...曲がんない...」


「わかった、絶対無理に動かすなよ」


「膝も足首もすっごい腫れてるな...

これからもっと腫れてくるだろうから靴脱がせるよ。痛いかもしれないけど我慢して」


左手で優しくふくらはぎを支えて、

右手でゆっくりとローファーを脱がせてくれる。


「うっ....」

「痛いよな...ごめん、もうちょっとで脱げるから、ごめんな」


なんか痛みで意識が朦朧としてきた。

後、頭打ったせいもあるのかな...?

でも余計な心配はさせたくない。


「平気平気!あーごめんね電車いっちゃったね笑」


「全然平気じゃないでしょ、顔真っ白だし、汗もすごい。無理に喋ったり笑ったりしないでいいから....よし、脱げた。

ひどいなこれ...」


淳に脱がせてもらい、露わになった左足首は象の足のように腫れ上がっていた。


「わぁお」


「わぁおってなんだよ他人事かよ。

とりあえずここだと危ないからちょっと端に移動しようか。どうにか移動できそう?俺左脚支えるから。」


「ありがと、やってみる」

両手を後ろにつき、右膝を曲げ、お尻を浮かして後ろに下がる。

どうにか隅に移動した。

尾骶骨のあたりが少し痛むが左脚の痛みに意識を取られていてあまり気にかけていなかった。


「よいっしょー」


1mの移動でこんなに辛いなんて...


「ここで救急車来るまで待ってよ。そこの自販機で水買ってくるから。あ、俺のリュックの上に足乗せといて。少しでもあげたほうが絶対楽だから。」


「うん...ありが..とう」

呼吸が少しずつ苦しくなってくる。


何度か軽い捻挫はしたことがあるが、

この痛みはそれとは比べ物にならないことは自分でも気づいていた。

私の脚どうなっちゃうんだろう...

骨折れてるのかな...

来月のバドミントンの試合は、出れないよね

まさか歩けなくなるなんて、ない、よね、、、?


そんなことを考えながら淳が走って自販機に向かってる姿を眺め、いつしか私は意識を失っていた。

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