第97話 Секретарь Языкого.(秘密の話。)

 マリーナたちが買い物に行っている最中、俺は典紀さんと話をしていた。


「それで、典紀さん。俺にどうして天皇を救って欲しいと思っているのだ。」


「シュタイン君。お前に行っておかねばならない事がある。日本には2つの派閥がある。1つは明伸維新を中心とする天皇派。もう1つはアメリカ追従の徳田幕府の政治に沿って動く江戸幕府派の2つがある。俺は元々、天皇派で天皇によって動いていて、緒川二郎を総理大臣にしようとしていた。しかし、アメリカやそれを背後にした徳田幕府系の軍産複合体によって俺たちの計画が破壊されてしまったんだよ。」


「典紀さん。つまり、徳田幕府はアメリカによって作られた幕府だといいたいのか?」


「厳密には違うが、事実上はそれで間違いないと思うな。何故なら、徳田幕府は元々、アメリカ建国の為に作られており、特に三河藩、即ち愛知県東部には強大な軍産複合体体制が敷かれている。」


「強大な…、軍産複合体…。」


 徳田幕府は軍産複合体によって作られた幕府だとしたら、徳田幕府が出来なければアメリカ建国されなかったし、日本は天皇の国として独立していた訳か…。


 中々、難しい内容だが、よく考えるとアメリカの歴史の授業ではやたら徳田家常を英雄扱いしていた内容が非常に多かった。


 そして、開国で開いたのは徳田幕府なのも事実だ。

 だとすれば、軍産複合体が背後にいるのは徳田幕府派で彼らは天皇を政治利用して、日本をアメリカに献上していた連中になるわけか…。


 だから、典紀さんの父親はアメリカによって狙われていた。

 故に典紀さんと共にロシアに逃げて、『カラプソフミーラ』を設立して、アメリカの軍産複合体を倒したかった訳だな。


 そうなると、江戸幕府がアメリカ式社会を作る土壌があったと俺は思った。


「典紀さん。」


「シュタイン君。」


「俺は、中学のあたりの歴史の授業で徳田幕府を異様に英雄視していた。恐らく、アメリカにとって非常に使い勝手の良い駒だったから江戸幕府は長く続いたし、日本が鎖国させる事でアジアの植民地化やアメリカというブラック国家の建国に貢献できたから長期政権が維持されている。」


「確かにそれは一理あるかもしれない。一方で、明治維新でも長州と薩摩では扱いがかなり異なっていた。」


 俺は明治維新でも長州と薩摩での扱いの違いは何かあるだろうと気になりながら、その話が気になったので聞いてみた。


「それでどんな話だ。」


「長州藩は明治維新後、もともと、同じ同盟だった悲劇気取りの会津藩の人間を大量に官僚として起用させ、長州、会津、三河連合で日本の西欧化を進める要因となった。一方、薩摩は酷い。南郷隆盛は薩摩を守る為、自害。国母敏則は明治政府に関わったが、後に抹殺され、首相に1人も出ていない例が明らかになっているからな。」


 これはどんな話か気になるところだが、薩摩と長州で後の扱いが非常に異なる様相を見せていたのなら、俺はそれがいったい何を意味するのか気になりながら、暫く考えていた。


「シュタイン。大丈夫か?」


「あぁ、大丈夫だ。少し、考え事していたからな。だが、渡部真三は長州出身でも徳田幕府側だろ。そして緒川二郎が天皇側。」


「そうだ。お前はそれを前提に考えているなら分かるだろうな。」


「あぁ。」


 俺はそれが事実だとしたら典紀さんの任務はかなり難しいものだと実感した。

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