幕間の物語:白騎士は戦火にて目覚める


 時間が少し遡るが、九七式のコクピット内では二人の少年が操縦席を奪い合っていた。

「いいから、貸して!!!」

「待てよ!!

お前もう軍人じゃないだろ!!?」

「軍人じゃなくたって君よりこの機体を動かせる自信はあるさ!!」

 座っていた透のシートベルトを外すなり、一輝は彼を退けようとする。一方で透も譲る気はないらしく、一輝を抑える。

「だいたい、さっきの挙動は何なの!!?

まるで近接機体みたいじゃないか!!!」

「この機体武器とセンサー以外ほとんど近接用の改造だよな!!?」

「狙撃手ほど迅速さと移動力が必要なポジションはないんだよ!!」

「サバゲーかよ!!?」

「いいから!!!」

 そこまで言い合い続けて、ようやく一輝が競り勝ち操縦席に座った。仕方なく透は操縦席の後ろにあるサブシートに座る。

 計器に目を合わせつつ片腕と指を軽く操作うごかして見ると、

「火器管制その他制御系統正常、油圧正常、OS設定……多少はあれだけどよく整備されてる……よし───」

ブツブツと独り言の様に呟きながら、

「───行くよ、九七式チハ!!」

キュィィィン、という電子音を短く立てながら九七式のセンサーが灯ると、シャコッ、という音を立ててワイパーを兼ねたシャッターがまるで瞬きをする様に一瞬だけ閉じて開いた。


丁度、その時であった。


『Ghah↑ra↓ra↑ra↑rararararaaaaaaaahhh!!!!』

───ギュョアアアァァァァァァァァァァッ!!!───


 片や曇り無き蒼穹へと、片や入り組む谷底へと放たれた轟咆。

 それが開戦の狼煙であったかの様に、

───ボヒュゥゥゥンッ!!!───

 先手を取った亀型が翼竜型へと火焔を帯びた砲弾を放った。

 それを翼竜型は飛翔して回避し、それにより着弾した火焔は爆裂すると同時に斜めの地面を盛大に抉る。

「なんて威力だ……!!」

 感嘆を示しつつ一輝は後退し森林の影へと逃げ込んだ。

 さらに着地した翼竜型に対し、蜥蜴型が追撃を放つ。

「……関心してる暇があったら攻撃しろよ」

「馬鹿か、君は……どんな性能かもわからない相手に突っ込めと───」

言い合いがまた始まりかけた、その時である。

「───っ!?」

「───っ!!」

───ィィィィィィィィィィィィィィィ───

 耳障りな音と共に、翼竜型の口元に段々と山吹色の光が集まっていくのが見えた。

「何だ……あの光───!!」

 次の瞬間───

───キィィィィィィィィィィィィィィィンッッ!!!───

「───っ!!?」

突然、口元から同じく山吹色の光線が放たれ、それが亀型の甲羅に直撃すると、反射したのがこちらの方へと飛んできたのだ。

 それを迷うこと無く回避を選択し、機体を少ししゃがませることで回避する。だが、

「───今のはビームか……!!?」

 透が驚愕の声を上げる中、一輝は背後を振り向き、その光景に衝撃を受けた。

「……っ!!」

 背後の木が直撃を受け、後ろへと倒れていく。だが、一輝はそれに目がいった訳ではない。直撃したのであろう、それのに釘付けになっていた。

「木が……!!」

 そこはまるで鋭利な刃物で一閃された様に綺麗にいたのだ。

「───今のって……!!

……でも……」

 呟きつつ、一輝は通信機を操作する。が、どういうわけか通信機が故障があるらしく機能が制限されていた。

「通信は……近距離と有線以外は難しいか……」

 確認しつつ、一輝は九七式の左腕を伸ばして掌を広げさせると、掌低部から接触通信用のケーブルを亀型の甲羅へと射出する。

「───接触回線、通信開始オープン……チャンネル解析、同期リンク……!!」

 操作を読み上げながら、九七式のレーダーに映る機体情報が更新されるのを待つ。

 二、三秒程でそれが終わると、『UNKNOWN』と示されていた亀型の反応が書き換えられた。アイコンの色も味方でも、でも、それまでなっていた正体不明でもなく、中立に変わる。

 そして───


 GM-X01 KO-GA


───機体名とされる標記がアイコンの隣に表示されていた。

「……『こうが』って読むのか?」

 『GM-X』という型式番号ナンバーも、一輝は少なくとも軍用機としては聞いたことがなかった。

「お前もアレに人が乗ってるって思うのか……」

「機械があんな柔軟に行動する訳ないだろうに───」

 言いかけたその時、

「───繋がった!!」

 亀型との回線が開かれ、『SOUND ONLY』とだけ中央に表示したウインドウが通信画面に表示された。


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