第一章エピローグ:適合試験


 あれから約一週間後の土曜日のこと。例の如く槌出内、真弓、透はディサイアの基地へと来ていた。

 三人は『休暇外出』という名目建前で来ており、それ故に私服姿であった。

「それで、今から何が始まるんです?」

「リアクターへの適合試験よ」

 地下空間にある監視棟の様な施設に、現在三人は来ている。ここには一輝と玲子も居た。

「うっひょ……」

 槌出内が思わずとばかりに声を漏らし、真弓が若干引く。

「やっぱりあの格好寒そうだな……」

 いいながら一輝は、窓から見える美優の姿を見てそう答えた。



 簡易型リアクター適性判断機、とされている素朴な機体の前に、パイロットスーツ姿の美優が立っていた。

 その彼女は慣れないせいかすごくそわそわしている。

「落ち着いてやればいいから」

 奈々はそう言うが、慣れないものは慣れないらしい。

「これに跨がればいいんですよね?」

 判断機の下部には自転車のサドルの様なものを取り付けられたアームがぶら下がっていた。それが操縦席パイロットシートなのだろうか、と疑問に思ってしまう。

 コク、と奈々が頷く。嫌そうに躊躇いながらも、数瞬の迷いの末に美優は言われた通りに座乗する。

「───ひゃぁっ……!!?」

 すると座乗した途端、いきなりシートが勝手に持ち上がり、声を上げるのも空しく機体の中へと収納された。

「上向いてのるんだ……」

 仰向けになる様に格納された美優は少々戸惑いながらも、その姿勢のまま操縦桿を操作することで予め言われていた通りに機体を起動する為の準備を行う。

「……パイロットシート収納、完了しました……」

 五本指用の輪が中に入った箱形の操縦桿。そこに指を入れると、腕輪が固定具の様なものに拘束される。

「神経接続、準備完了」

 脚も固定具によって固定され、肩・脇腹・太股・脹脛ふくらはぎなど衣装から露出した部位に合わせて器具がシート脇から出現し所定の部位に接着した。

「接続、開始します」

 彼女がそう言った。その直後、


「───ッ……!!!」


 ピリッ、という電流が流れる様な感覚に一瞬身震いする。

「……───っ!!?」

 何!!?と反応する間もなく、直後、悶える様に目を瞑る。

「───んっ、あぁっ……あぅんっ!!?」

 美優は喘ぐ様な、言葉に成らない声を発して仰け反った。

 太股の内側を、一筋の液体が伝う。

「……はぁ……ぁあっ……まって、なにこれ……!!」

 悶える間にも伝っていく筋が一本一本と増え、その都度彼女の脚が小刻みに震え出す。

「おなか、あつい……ぃいっ……!!」

 彼女は今、今まで彼女が味わったことの無い感覚に襲われていた。

 その反動からだろうか。プシャァッ!!!と、秘部から飛沫が上がる。

「……ぃやあっ!!?

んあぁ……ダメぇ……あ───」

 流れが滝のようになる頃には、

「───ぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 次の一瞬でに達し、彼女の身体はビクビクと震え出した。



「なんだ!!?」

「何が!!!」

 突然苦しむ様に美優が悶え始め、例の四人一輝・透・真弓・槌出内は騒然となる。

「ちょっとこれ止めた方が───!!?」

 一輝が止めるよう進言するべく振り向くが、直後に唖然として止まってしまった。

 振り向いた先では玲子が恍惚な眼差しを向け「あっはぁぁ♡すっごーい♡」などと言っていては、先程遅れて入ってきた渚と奈々はというと「……うむ、思いのほか起動に時間がかかるな……」「もう少し機体に委ねられればいいんだけどね……」等と口に出していた。

「……ちょっと待って何で皆さん普通そうにしてるんですか!?

ていうかこれが普通なんですか!!?」

 その後継のギャップに、すさまじく戸惑いを隠せなくなった一輝は悲鳴に近い叫びを上げてしまった。

「あぁ、彼女なら大丈夫よ。

絶頂してるだけだから」

「そうですか……───」

 すると玲子から返された答えに、一輝は一度流しかけ、

「───へ?」

 すっとんきょうな声を上げた。

「今なんて……」

 聞き返すと、少し間を置き、


「絶頂」


 そう答えが返ってきた。

「へぇぁっ!!?」

「───っ!!?」

 真顔で返され、その答えに赤面しながら、先程とは別の意味の悲鳴を上げた。

「ぜっ、ちょ……えっ!!?

待って、それってつまりあれですか!!?

あの『イキスギィ!』ってやつですか!!?」

「仮にも女子にその言い方は失礼じゃないかなあ!!?」

 赤面しながら取り乱し黄色い悲鳴を上げる一輝に渚が突っ込む。

「そうよ、その通り!

『イキスギィイクイクンアーッ!!(迫真)』ってやつよ!」

「お前も乗らんでいい!!!」

 怒濤の勢いで玲子も畳み掛け、こっちにも渚は突っ込みを入れた。

「ぜ、ぜっ、───破廉恥ですぅっ!!!」

 同じく唖然としていた真弓も顔を赤めらせ、悲鳴を上げる。

「槌出内三尉?」

 その横で、ふと透が槌出内の方を向いた。

「ん、いや、スマン……急に催してきてな……」

 そういって槌出内はなにやら下腹部を、というか、股間を押さえていた。

「アンタって人は───っ!!!」



 試験を終え、美優は適性判断機を降ろされる。

「はぁ……はぁ……はぁ……ぁあん……はぁ……」

 脚を小刻みに震わせている、水浴びでもしたかの様に汗やその他溢れだした体液で身体中がずぶ濡れになったその姿は、まるで産まれたての小鹿の様である。小さく一歩を踏み出す度に彼女の足元には水溜まりができていた。

「ぁん……っ!!んっ……!!」

 その一歩を踏み出す度にやたら色っぽい吐息が漏れる。

「だ、大丈夫ですか……?」

 一輝が美優を案じて問うが、

「らい、りょうぶ、れふぅ……」

 大丈夫、と言ったのだろうか。呂律が回っておらず、また角度の関係か下向き気味だった彼女の瞳の中に逆光でハートマークが浮かんでいる様に見えたのも含めとても大丈夫な様子には見えない。

 哀れむように見ていると、

「あなたもやるのよ?」

「え」

 後ろから玲子に声を掛けられた。



約一時間後

そんなこんなで一輝もやることになった。


「うぇえい……」

 男性用に新造したらしいスーツに着替え、言われた通りにシートに座る一輝。

 この衣装はところどころ肌が露出している部位以外は思っていた程寒くはない。

 だが、ある程度拭ってはいたがまだ湿っていたシートに何とも言い難い感覚を覚える。

「うーむ……」

 シートが格納され、言われていた通りの操作で進めていく。

 肌の露出した部位に機械が接着され、

「同調、開始」

 そう言った。直後、

「───ッ───」

 ピリッと感電する様な感覚を感じた。

「───…………」

 例のアレが来る、と身体が強ばりかけた。が、

「…………あれ?」

 フィィィィィィン、という何らかの機械が動き出す音が聞こえ、それと同時に感覚が一気にクリアになっていく。着ているスーツや機械の密着感や座席の蒸れも、強ばりすらも感じなくなり、視界も

「案外すんなり……」


「…………っ!!?」

 それは監視棟からでも確認されていた。

「絶頂するまもなく起動に性k……もとい成功した!!?」

「今言っちゃいけない同音異義語言いかけたよな……」

 突っ込みつつも、渚もそれには驚愕を隠せない。

「この適合指数数値……奈々やクリスよりも一回り上よ」

「あぁ……」

 ちなみに美優は今まで計測した中で最下位だったそうな。

「この分だと甲王牙を奈々とローテで乗せられそうだ───」

『いや、僕九七式チハ乗りますよ』

 渚の言い分に、食いぎみで一輝が答える。

『付け焼き刃よりはマシだと判断しますが』

「しかしなぁ……」

『それに……』

 そこまで言ったところで、急に一輝が言いよどむ。

『あ、いえ、何でもないですけど……せっかく託された機体なので、しばらくは九七式乗ります。

あと、そろそろこれ降りますね』

 どうしたのかと聞くが、何かを簿かす様にそう答えて一輝は通信を切り、宣言通り機体から降りた。


 奈々がやたらふてくされた表情で、画面に映された彼のデータを睨んでいたのを、渚が気付く間もなく。

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