第三話:厄災は再び

機壊獣


英語表記『M.O.N.S.TER.───Mechanics Of Non Synthesized disasTER=災害レベルで人類に同調しない自律稼働機械群』


 これらは突如現れ、人々を襲っていた。


 最初に発見されたのは今から十六年前、場所は南極だった。

 次に現れたのはアフリカ。

 その後、南アメリカのアルゼンチン・ブラジル、オーストラリア等、南半球側の各地に出現。

 そんな中、何の突拍子もなく北半球側で初めて確認されたのが、日本の茨城県───七年前の惨劇の現場だった。

 以来、この機壊獣は北半球側でも確認される様になる。


 実はこの機壊獣、出現してからとある日まで人類から




横須賀 観音崎警備所

『砲台が突破された!

八九式部隊一班、後退しながら射撃!』

「りょ、了解」

 槌出内の号令により、美優は自身の搭乗する八九式騎甲戦車前期型を後退させる。

 旧型とはいえ、足裏には超電磁高速回転履帯を備えており爪先の方向や重心を変えるだけで歩行するより速く、スムーズな機動ができた。

さらに、一挺の火器───二〇式70.0mm携行電磁砲を構え、射撃する。

 ローレンツ力により加速された70mm砲用の榴弾や徹甲弾が発射され、それらが機壊獣の足元に着弾し爆ぜる。

 徹甲弾も命中しているものがあるが、ほとんど大柄な頭部の装甲に阻まれて弾かれている。

『何でよりにもよって機壊獣はこうも!!』

『前からそうだろう!!』

『そりゃそうだけど!!』

 北島、蒲田らの乗る機体達もそれに続き行動を開始。

 そのコクピット内で吐き捨てた、北島の言い分ももっともだった。

 機壊獣の出現場所には、のだ。

 というのも、出現した都市のほとんどは特に主要都市という訳でなく、襲う理由もメリットも考えられない。機械コンピューターの仕業にしても無駄が在り過ぎていた。

『考えている暇があったら撃て!』

『撃ってますよ!』

 槌出内が注意を促したところで、北島が食い気味で返す。

 そうこうしているうちにも、もう押され気味になっていた。

 というのも、レーダーに映る限りではもう二十機以上も上陸しているからだ。


灯台付近

「何が迎撃準備は整っていてだよ……ほとんど総崩れじゃないか!!」

 毒づきながら、透は狙撃銃型の火器を構えた。四一式70.0mm電磁加速狙撃砲───九七式中型騎甲戦車用の装備としては最高レベルの火力を誇る火器だ。

 スコープで覗くその光景。怒涛の様に凄まじく、おぞましい連中が崖を登っている。複数確認されたとは聞いていたが、総数二十四機とは流石に聞いていない。

「一発撃ってどうなるか……!!」

 銃爪を引く。

 炸薬式で発射された70mm徹甲弾が電磁石を施された銃身バレル内部でローレンツ力により再加速されて射出される。

 そうして発射された弾丸は射撃位置から200メートル以上は離れている位置まで一瞬で駆け抜け、機壊獣一機の足元を穿った。

 見ている限り、機壊獣の装甲に70mm砲弾はあまり効果がない。なら地面を穿ち転倒させればいいと考えたのだが、その機体が倒れることは無かった。

 それどころか弾を飛ばしたこちらにヘイトが全く向かない。

「───チッ……!!」

 苛ついて、先程狙った個体の右側頭部に当ててやるべく照準し、射撃。

一発目。外れたが、足元を穿ちバランスを崩した。

二発目。側頭部に命中。だが弾かれた弾丸はどこかへすっ飛んでいった。

三発目。脇腹に直撃しそのまま穿った。が、撃破には至らず、姿勢を直すとそのまま動き出した。

「……クソ」

 ここに来てもまだヘイトが自分に向かないことに苛立ちを通り越して違和感を覚えた透は、一度射撃を止め得物の弾倉を徹甲弾から榴弾に交換した。

 し終えたその時、唐突にアラートが響く。

「───!!?」

 崖の上での攻防にばかり気を取られていたせいで遅れかけたが、可能な限りすぐに反応し左肩に搭載された盾を構えながら後退した───が、その直後、

「───ぐわぁっ!!!」

 盾に衝撃が走り、ほぼ同時に爆音が響いた。


 一機の八九式が、上半身のさらに上半分を穿たれて倒れた。

『……た───』

 黒い煙を放つその機体のコクピットブロックが、機体が仰向けに倒れた直後に遅れてベイルアウトされる。

『───隊長ぉぉぉっ!!!』

 それは、槌出内の機体だった。

「槌出内、二尉……?」

 美優が、呟いている。

「嘘、ですよね……?」

 ただ呆然と、呟く様に問いかける。 

『止まるな河田!』

 未だに信じられない美優を現実に引き戻したのは、北島だった。

『砲撃型だ!!

止まっていたら撃たれるぞ!!!』

「は、はい!!!」

 涙目になりながらも、建物に注意しつつ蛇行しながら二〇式電磁砲に榴弾を装填し、射撃。

 徹甲弾は殆ど効果がない以上は榴弾で時間を稼ぐしかない。だが、

『───しまった!!』

 蒲田の機体が、脚を穿たれて転倒してしまう。そこに何体もの機壊獣が群がってきた。

「蒲田先輩!!!」

 蒲田の八九式は頭部機銃、胴体部機関砲、携行電磁砲を連射し続けたが、その抵抗も空しく群がられる。

『糞ぉぉぉっ!!!』

 北島が助太刀に入らんと、対物ナイフを構えて突っ込んでいった。

『今のうちに脱出しろ、蒲田!!』

『……』

 蒲田が応える間もなく、北島が切りかかる。

『キュォオオオン!!』

『来いよ犬っコロ!!!』

 一機の機壊獣が、北島機の左肩に噛み付く。そうしたのを確認し、その首筋に、

『執った!!!』

 右手に構えた対物ナイフを突き立てた。直後、その機壊獣は停止する。

『一機、撃墜……!!』

 直後、

『……は───まさか!!?』

 それが、美優が聞き取れた彼女の最期の言葉だった。

 北島機の肩に噛み付いたままだった機壊獣が、突然轟音と共に爆散する。

「北島先輩───!!?」

 油断した隙に自爆された。北島機は倒れた下半身を残して吹っ飛んだ。

 蒲田の機体はというと、群がられた機壊獣達に胸部装甲ごとハッチを抉じ開けられ、赤い液体が付着した顎を突っ込まれていた。

「───ぁ……!!」

 その様子だけで、何をされているのかが分かってしまう。

 それは、機壊獣を機械と認識させるのに期間を要した原因とも言える行為───だ。

「あ……あぁ……」

 一人立ち尽くしていた美優。他の僚機も次から次へと破砕されていた。

 そんな中、一機の機壊獣が美優の機体に向かってきて、ほぼ無意識に緊急脱出装置を起動させ、ベイルアウトした。コクピットブロックが機体の背中からバッグパックを剥離パージし電磁砲の要領でリニアレールが組まれた機体から射出される。

 地面に落っこちたブロックから這い出た美優は、機体を放り出す形のまますぐに走り出した。

 胸中にあるのは唯一つ。恐怖───それから逃げたいという願望だけが彼女を突き動かす。のだが、

「あぁっ!!?」

 躓いて転んでしまう。

 その音か、声に反応したのか、

『キュォオオオォ───ォン』

 機体を漁っていた機壊獣が美優の姿に気付き、そちらに走り出した。


「あぁ……」


 何もかもがスローモーションに見える。


「……あぁ……」


 美優の目に涙が浮かぶ。




死ぬんだ、ここで




変な獣に




惨めに貪り食われて




……嫌だ




死にたくない!




誰か




助けて!





 目元に滲んだ雫が、頬を伝った───その時である。



『ギャォン!!?』

「───っ!!?」

 突然降ってきた何かに穿たれ、目の前に迫った機壊獣の一機が破砕された。

 その直後、立て続けにそれらが降り注ぎ何体もの機壊獣を穿っていく。

 基地の仲間達を蹂躙していた機壊獣が、気がつけばものの数秒で六体もスクラップと化していた。

「一体、何が……?」

 そこで、ふと

───……ヒュン…ヒュン…ヒュン……───

 風を切る様な音が聞こえた気がした。


 左右を振り返るが、何もない。


だが、


───ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン───


段々音が近づいてきていた。


 ふと、本当に偶然、上を見上げたら───


「───!!?」


 ───そこに、それはいた。

 風斬音の音源───が。


 どこからか放たれた、徹甲弾の様なものが機壊獣の一機を穿っていった。

「───何だ……?」

 いきなりの反撃から何とか体勢を整えた透だったが、気が付けばほぼ壊滅状態となった中にどこからともなく弾丸が何発も撃ち込まれる、という状況となっていた。

 その時、

「……あれは───」

 暗い空一面を覆っていた厚い雲を突き破り、火を吹きながら高速で回転する円盤の様なものが急降下してきた。

「───まさか、あれが……!!」

 すぐさま、司令部に通信を入れる。

「こちらF-11ファヴニール・エルフ!!

報告にあった円盤が現れました!!

司令部、至急命令を───司令部……?」

『こち──ザザザ──い部──ザザザ──た──?

せよ───』

 だが、ノイズが酷く聞き取りずらくなっている。

「……電波障害……でも、完全なジャマーじゃない……あいつの影響か!!」

 通信を切る。直後、

「───!!」

 円盤が突然、妙な動作をした。

カカカカッ!パシュゥゥゥン!カシュゥン!

 軽快な音を立て、それの上部を覆っていた装甲が一斉に開き、直後に白い気体を噴射したかと思えば開いた装甲を閉じたのだ。

「放熱した、のか……?」

 様子から分析する透。

 すると間もなくして、

 ズシィィィン、という鈍重そうな、離れた位置にいる透の機体にも集音され聞こえる程の轟音を立て、が降り立った。


 恐竜の様な厳つい顔立ち。歪な円盤の途中から生えた巨木の様な腕脚てあし

 は、彼が知っているとあるものに似ていた。


「……カメ?」


 そのは、エメラルド色の瞳を輝かせると、暗黒の空を仰いだ。



 オールビューモニター越しに、奈々はそいつらを睨み付ける。

 『獣型』と認識されている、文字通り犬に似た体格と鰐の様な頭部が特徴の機壊獣。


こいつらはゴミだ。人も、他の生き物達も、家さえ無差別に食い尽くすケダモノだ。


壊したい。焼き尽くしたい。───あの時、恐怖から救ってくれた、あの背中の様に。


壊してやる。焼き尽くしてやる。


奴等を───。


 


「行くよ……───コウガ!」


 彼女の想いに応える様に、




『Ghah↑ra↓ra↑ra↑rararararaaaaaaaahhh!!!!』




 亀に似た姿の、異形の機械───GM-X01 甲王牙こうがが、仰ぎ見た暗黒の空へと轟咆を上げた。

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