第8話 キミたちに対処してもらう

「かんぱ~い!!!」


ピアリッジ三人と、候補生たちはサイゼリヤに集合していた。


テーブルには所狭しと料理が並び、それぞれがジュースの入ったグラスを掲げている。


今日はピアリッジライブ映像配信の第二回目であり、その打ち上げだった。


「今日は、二人ともよくできてたよ!

 武器の使い方もうまくなったし、セリフもばっちりだった。

 特訓のかいがあったね」


いつもは難しい顔をしがちなサラも、満面の笑顔だった。


「みんなで何かをやり遂げるって、こんなにステキな気持ちになれるんですね。

 特訓してよかったです。

 正直、キツかったけど」


感動のあまり、つぶらな目に涙すらたたえて、マナセが言った。


「ま~あんだけ練習したんだから、これで今日へっぽこだったら、シャレになんねーわ。

 でも、おかげで今日はうまくいったよ、ありがとう、サラ!

 これでオメーから、オニババみたいにガミガミ言われなくなって、こっちもセイセイしてるぜ?」


いたずらっぽく、ミカルはサラにウインクした。

サラは笑顔を引きつらせる。


「オニババってナニ!?

 それに、特訓はこれからも続くんだからね!」


怒るサラの顔をまじまじと見て、ミカルはにっと笑った。


「オニババはマチガイ、ナマハゲだったわ。

 まあ、明日からのことはともかく、いまは今日の成功を楽しもうぜ?」


サラは激昂して立ち上がる。


「ちょっと、フザけないでよ!

 あたしがいなかったら、今日はどうなってたことか、わかってんでしょうね!?」


ミカルは拝むように手を合わせ、頭を下げる。


「嘘ウソ。

 言いすぎたよ。

 本当は感謝してんだけどさ、ちょっと照れちまった。

 ごめん!」


素直に謝罪され、サラは怒りを忘れて、席に着いた。


「まったく……ミカルはもうちょっと調子乗ってるのを何とかしなさい。

 マナセみたいに素直になれないの?」


「わたしは何もできない子だから……。

 だから、せめて言われたことはできるようになりたいんです」


マナセは目を伏せ、真剣な面持ちで言った。


奇妙にぎこちない動作で、サラはマナセを見る。


「ま、まあマナセはもうちょっと、運動をしたほうがいいね。

 今日も『ブリリアント☆トーチ(ブリトー)』の使い方がいまいちだったかな」


「すみませんでした」


神妙にあやまるマナセに、サラは慌てる。


「いや、怒ってるんじゃなくてね、なんていうか」


「今日のマナセはよかったじゃん。

 カタナもうまくなってたよ。

 つか、いつもセリフがカンペキなのが、スゲーよ」


若鶏のグリル (ディアボラ風) を行儀悪くかみちぎりながら、ミカルがフォローを入れる。


「ありがとうございます!

 せめて台本だけはちゃんとしようと思って、頑張ってるから、ほめてもらえてうれしい……」


マナセはうれしそうに、肉をほおばるミカルの横顔を見つめた。


むっとした様子で、サラはミカルをにらみつける。


しばらく雑談のあと、ミカルは立ち上がった。


「ちょっとトイレ行ってくるわ」


そのあとに、候補生が二人ついてゆく。

いずれも、ミカルと同じように派手な服装の者たちだった。


候補生の間では、ピアリッジ三人のうち、誰をひいきにしているかで派閥ができているのだった。


サラはそっとかたわらの候補生にささやいた。


「あの子たちがいなくなると、ちょっとホッとするね」


「ウルサイ連中ですから」


調子を合わせる候補生。

サラを信望する、候補生であった。


ちなみに、候補生の数は現在、十名でおり、サラのとりまきは三人いる。


「ピアリッジの使命をわかってないんですよね。

 なんか遊びだと思ってる」


「そうそう。

 あたしは……あたしたちは、ヴァリアンツから普通の人たちを守るのが仕事なんだから。

 二年前は、何の罪もない人たちが、何人も亡くなって、前のピアリッジがいなかったらどんなひどいことになったか、わからないよね。 今度は、あたしたちが弱い人たちを守らなきゃ」


気持ちよく語り始めるサラ。


「使命感があるとないとでは全然違いますよ」


「本当に。

 そのための、ピアリッジの力なんだから、意識の低い人がやっても、意味ないよ、本当は。

 トビヒトさんは、その辺さっぱりわかってないし。

 しょせん、何もわかってないオジサンだと思う。

 だから、あたしがちゃんとしなくちゃね」


「わかります」


マナセも、仲のいい候補生の一人と話し始めた。


「マナセちゃん、すごくカッコよかったよ。

 もう『ユリピュア』そのものだよ」

 

「ホント?

 うれしい、サクラちゃんにそう言ってもらえると。

 戦闘服が『ユリピュア』のに似ててよかった」


「夢だったもんね」


「うん。

 引きこもってた時、アニメばっかり見てたけど、『ユリピュア』が一番、好きだった。

 わたしも強くなって、一緒に死ねるほどの親友ができたらなって、あこがれてたんだ」


「ユリコス作ったんだけど、二人分作ったの。

 わたしも、マナセちゃんの友達だよね?

 だから今度、いっしょにコミケ行こ」


「……うん。

 ちょっと恥ずかしいけど、行ってみようかな……サクラちゃんがいっしょなら……」


一方、トイレに出かけたミカルも、洗面台の前で候補生と話していた。


「つーか、サラってウザくないすか?

 いっつも偉そうにして」


ミカルと候補生は、電子タバコをくわえ、しきりにメイクを直しながらしゃべっていた。


「あーね。

 トビヒトにリーダー任されてチョーシこいてんだわ」


スマホをいじりつつ、上の空で答えるミカル。


「そーだよ。

 しかもあいつ、服ダセーよな、なんかいっつも男みたいなカッコして」

 

「武闘派きどりってやつじゃね。

 ふざけんじゃねーって、マジでむかつく。

 ……ね、ミカルさん、あいつ、やっちゃわないんすか?」


「あ?

 ……いいじゃん、別に。

 ほっとけば?」


「なんかミカルさんには、特に強気じゃないすか。

 ムカつかないんすか?」


「別にー。

 どーでもいい」


「そっすか?

 でも、そのうちミカルさんが、シキってくださいよ。

 クソマジメとヒッキー、ウザすぎ」


「まあ、今日上手くできたのも、なんだかんだでサラのおかげだし。

 ウチはカッコよく目立てりゃなんでもいいし。

 あーゆーメンドクセーのも、必要なんじゃん、世の中には」


「そっすかね。

 でも、ホントはムカついてんじゃないっすか。

 さっきも結構イジってたし。

 そのうち、ミカルさんがあいつをシメんの、期待してますよ」


ミカルは無言で肩をすくめた。


と、スマホの画面が着信中に変化する。

発信者は、トビヒトだった。


「なんだ?」


ミカルが受信すると、トビヒトの声が言った。


『どうかしたんですか?』


サラの声が聞こえる。

グループ通話になっているようだ。


『緊急事態だ。

 今どこにいる?』


『どこって……目黒のサイゼですけど』


サラが答える。


「いま、みんなで打ち上げやってて」


ミカルはサラの説明に補足した。


『三人とも同じ場所にいるんだな?

 わかった。

 すぐに迎えをよこす』


電話が切れる。

ピアリッジの三人はすぐに店内で合流し、店の外に出た。


すぐに車が来た。

助手席にトビヒトが乗っている。


「楽しんでいるところ、邪魔して済まない。

 だが、緊急事態だ。

 本物のヴァリアンツが現れたらしい。

 キミたちに対処してもらう」

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