第5話 グダグダだったけど、あんなのでよかったのかな……
関係者の心配をよそに、ピアリッジのやらせライブ配信は続いていた。
三人のピアリッジは、近接戦用の武器を手にしている。
「ブリリアント☆バーナー」と名付けられた、輝く剣であった。
かつてのピアリッジは、手足から直接エネルギー波を放出し、光剣を生成していたが、今のピアリッジにはその芸当はできない。
そのため、専用に開発された機械で代用していた。
剣の柄に内蔵された小型のプラズマ発生器が、刀身のような細く長い炎を噴出する。
薄い鉄板を溶断できる性能があり、むやみに振り回すのは危険であるため、今回のやらせ撮影では、出力を最低限まで落として使用していた。
「あたしの後についてきて!
そろそろ終わりだから、最後はきちんと決めよう!」
サラが二人に指示する。
「は、はい!」
「わかったわかった」
三人はスタントマン演じるヴァリアンツを追い詰めるように、新宿中央公園から、東京都庁と新宿NSビルの間を駆け抜けた。
新宿駅へと向かう。
ピアリッジの進路からは、通行人に危険が及ばないよう、警察官や、トビヒトのPMScに属する警備員が、一般人を排除していた。
とはいえ、おびただしい野次馬が、ピアリッジの姿を目撃した。
ヴァリアンツ、ミューズノートは雑居ビルに飛び込んだ。
シナリオでは、ここでピアリッジがミューズノートを倒し、ミューズノートが爆発する、という段取りになっていた。
当然、爆発はフェイクであり、あらかじめ建物に仕掛けてある爆薬が決まった時間に炸裂する。
その際、ミューズノート演じるスタントマンは、爆発を避けるため、建物内の安全な場所に退避することになっていた。
ミューズノートは雑居ビルの屋上へ移動し、存在を誇示しつつ、ピアリッジを挑発する。
「ここで決着をつけてやろう、ピアリッジども!
かかってくるがいい」
三人のピアリッジは、もたもたと建物に入る。
「えっと、ビルのシーンってどんな技で倒すんだっけ……」
不安げにつぶやくサラ。
「オーロラトライアングルスプラッシュですよ」
マナセが説明する。
「ヤベーぞ、早くしないとここ、爆発しちゃうぜ?」
ミカルの言うように、雑居ビルに仕掛けられた爆薬の爆破時間が迫っていた。
と、屋上へと続く階段から、怒声が飛んできた。
「まだかよ!?
もう時間に遅れてるぞ、早くしてくれ!」
ミューズノート役のスタントマンだった。
「すみません!」
サラが謝る。
彼女を先頭に、ピアリッジたちは屋上へ出た。
声をそろえて、
「オーロラトライアングルスプラッシュ!!!」
と叫んだ。
すると、雑居ビルの周囲に設置されたホログラム映写機が、ピアリッジとヴァリアンツを壮麗な光でつつむ。
あたかも、ピアリッジから発した七色の光が、ヴァリアンツを取り巻いたかのようだった。
ヴァリアンツが悲鳴を上げる。
幻想的なホログラフィに、ビルを囲んでいた人々は幻惑されていた。
その隙に、スタントマンはビルの内部に駆け戻る。
頑丈な壁で防護された簡易シェルターに飛び込もうとした瞬間……。
雑居ビルの屋上が、すさまじい爆発を起こした。
ピアリッジたちは、猛烈な爆炎に包まれ、地面に落下する。
最上階の窓から、轟然と炎が吹きあがっている。
強烈な爆風によって、周囲の建物の窓ガラスはことごとく粉砕されていた。
あたりの道路には、破砕されたコンクリートやガラスの破片におおわれていた。
「マナセ、ミカル……大丈夫……?」
ススまみれになったピアリッジたちは、互いに駆け寄る。
「ちょっと痛かったけどさ、今はヘーキ。
でもよ、メチャクチャ汚れちまったよ」
「爆発があんなすごいなんて、知りませんでしたね。
ピアリッジじゃなきゃ、死んでたかもですね」
「グダグダだったけど、あんなのでよかったのかな……」
消防車や、救急車のサイレンが、響き渡る。
見物していた人々が、何人かけがをしたようだった。
ピアリッジたちは呆然として眼前の惨状を見回した。
***
新ピアリッジによる第一回目の戦闘は、大成功をおさめた。
配信動画は一日で百万アクセスを超え、目撃した人がインターネット上にアップロードした画像や動画、SNSなども、のきなみ活況を呈した。
この結果に、トビヒトたち関係者は胸をなでおろした。
特殊撮影に不慣れな人員を使ったために、クライマックスの爆発シーンでは想定外の被害を出してしまったからである。
一般人のけが人、軽傷十二名、重症三名。
現場にいた警察官、PMScの警備員合わせて二十名が負傷。
撮影に参加したスタントマン一名が、爆発から逃げ遅れて死亡。
周囲の建築物への被害総額、三百万円。
ともあれ、順調な出だしであった。
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