第4話 こいつら、まともにセリフも言えてないだろうがよ!

新宿中央公園にほど近い、新都庁の一室。


高層に位置するその部屋には、いくつものモニタが壁を埋め尽くしていた。

モニタには、様々な距離や角度から、ピアリッジとヴァリアンツの戦闘が映し出されている。


トビヒトと、初老の男がモニタをにらみつけ、顔をしかめていた。


「おい、九路打(くろだ)2尉、お前ふざけてんのか」


初老の男がうなるように言う。

トビヒトは恐縮して棒立ちになった。


「申し訳ありません。

 事前準備が不足しておりました」


初老の男は、トビヒトが自衛官だった当時の上官、白井士(しらいし)ダン、元1等陸佐であった。


かつてトビヒトとダンは、エリシャとルカの身柄を預かっていた自衛隊中央情報保全隊に属していた。

富士山での戦闘において、ピアリッジ二人を喪失するという大失態を犯した責任を問われ、自衛隊から放逐されたのである。


しかし、短い期間でピアリッジとの信頼関係を築き上げ、ヴァリアンツに大打撃を与えるまでに運用した成果は認められていた。


その経験を惜しまれ、彼らはPMScを設立するという形で、ピアリッジに再びかかわることとなった。


これまで防衛省および陸上自衛隊がヴァリアンツ対策を主導していた経緯に対する警察庁からの反発もあり、ヴァリアンツ襲撃によって大半が死傷した閣僚の入れ替わりとともに、体制が刷新された影響を受けたこともあった。


今後、ピアリッジは国家安全保障会議の国家安全保障局、政策第4班が管理することとなった。


それは、これまでの防衛省から、実質、内閣総理大臣へ管轄が移ったことを意味するものであった。


自衛隊を辞職したダンであったが、トビヒトの前で怒りを表すときには、必ず階級名を口にする。


トビヒトは冷や汗をかいた。

自衛官時代から、ダンが怒った時の迫力は普通ではなかった。


ダンがいらいらと言う。


「こいつら、まともにセリフも言えてないだろうがよ!

 おまえ、ガキの面倒一つ見れねーのか!」


トビヒトには返す言葉もない。

が、ヤラセとはいえ、ライブ放映にはハプニング、アクシデントはつきものである。

フォローの準備は怠りなかった。


トビヒトはモニタを示し、音量を上げた。


「あれが現在放映されている映像です」


そこでは、ピアリッジたちのたどたどしいセリフはかなり緩和されていた。

さらに、おたおたしている様子も、あまり映らないようにアングルが巧みに切り替わっている。


ダンは感心したようだった。


「配信用の映像には、リアルタイムで適切な修正を加えております。

 新たに開発された高性能のAIで実現しました」


「なんだそりゃ、リアルなCGみたいなもんじゃねーかよ。

 だったら、人間使ったり、こんなチンケなアトラクションする意味あんのか?」


「口コミも重要なので。

 一般人の前で、騒動を起こすことが必要です」


ダンは納得したようだった。

トビヒトと違って、ダンはもっぱらPMScの人材や資金集めに奔走しており、現場にはやや疎いのだった。


「まあ、いいけどよ。

 少しはガキをしつけとけよ、あいつら選んだのはお前なんだからよ。

 これから実戦だって、あるんだろ?

 あんなんじゃ、もたねえぞ」


「は。

 申し訳ございませんでした」


トビヒトは内心、毒づく。


(みかけは子供でも、その気になれば大人だって簡単にひねり殺せる腕力をもってる連中の前に、丸腰で出る身にもなってみろよ……!)


失った片足の傷がうずいたような気がした。

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