第3話 わたしたちは、人類の守護者、ピアリッジ!

新しいピアリッジのお披露目ともなる、撮影の開始時刻が迫っていた。


本来なら、ヴァリアンツとの戦闘は偶発的に発生するものであり、予定を組めるはずもない。


が、今回の撮影はピアリッジにとって初めてということもあり、あらかじめ敵役のヴァリアンツをスタントマンに演じさせて、ヤラセ撮影を行うのである。


新たなピアリッジの戦いは本物であり、現在もヴァリアンツは人類にとって脅威である、と一般人に信じさせるために、実戦を装うことが目的であった。


新宿中央公園の片隅に、三人のピアリッジが集合していた。

辺りはトビヒトがよこした警備員によって、立ち入り禁止とされ、人気はない。

ピアリッジは、それぞれが通学する学校の制服を着用している。


マナセは緊張のあまり、真っ青になっていた。


「大丈夫?

 具合悪そうだけど……ちゃんとできそう?」


心配そうにサラが尋ねた。


無言でこくりとうなずくマナセ。


ミカルが困ったように腕組みをした。


「やっぱりさぁ、小学生から引きこもってたのが、いきなりピアリッジとかって、ムリしすぎなんじゃないのぉ?

 ヤバそうだったら、どっかで休んでたほうがいんじゃね?」


眉を吊り上げてサラが抗議する。


「三人いるはずのピアリッジが、一人欠けてたらおかしいじゃないの!

 あなたもちゃんとマナセのフォローしてあげてよね」


ミカルは腕組みをほどいた。

肩をすくめる。


「なんかあったらフツーに助けるけどさぁ……。

 ウチも、全然ダンドリ覚えてないわけだし、ちょっと自信ないかな」


ミカルのいい加減な態度に、サラは堪忍袋の緒が切れた。


「ホントに、ちゃんとやってよね、二人とも!」


その時、落雷のような轟音が響き渡った。

三人の臓腑までも震わせる、すさまじい音だった。


あまりの迫力に、一瞬、黙りこくる三人。


サラがあわてる。


「ほら、始まった!

 行きましょう!」


***


爆発は、新宿中央公園で起こった。


突然の爆発音に、あたりを歩いていた人々は、恐怖の面持ちで近隣の建物に飛び込んだ。


上空には、テレビ局のヘリが飛行している。

今回の撮影に協力するためであった。


公園のちびっこ広場に設置されていた遊具が吹き飛び、もうもうとした土煙が付近を包む。

煙の中から、長身の筋骨たくましい男が出現した。


高らかに哄笑する。


「我が名はミューズノート!

 地球人類は皆殺しだ!!」

 

その前に、ピアリッジの三人が駆け付ける。


「そんなことはさせない!」


サラが昂然と言った。


その横で、マナセが派手に転んだ。


「痛ったい!

 やだぁ、服に泥がついちゃいました」


「大丈夫かよ?

 怪我してねーか?」


ミカルがしゃがみこんだマナセを助け起こす。


サラはその様子を横目で見つつ、演技を続けた。


ドレッドノートは、ピアリッジたちをにらみつける。


「なんだと?

 何者だお前らは~!」

 

「わたしたちは、人類の守護者、ピアリッジ!

 平和の乱すヴァリアンツは、断じて見逃さない!!!」


セリフを言い終わってから、サラは、両脇にいるマナセとミカルにささやいた。


「今のところ、三人で言うはずだったでしょう?

 なんで言わないの?」


ひそひそとミカルが答える。


「わりぃ、セリフ覚えてなくて……」


続けてマナセが言う。


「緊張しちゃって、声が出ませんでしたぁ」


「バカ!

 もう撮影は始まってるのに!

 もういいから、次からはちゃんとしてよね」


サラの言う通り、あたりにはカメラを搭載したドローンが飛行し、彼女たちの一挙一動をカメラにとらえている。


ミューズノートが戸惑った様子でささやく。


「おい、なにやってんだよ、おまえら!

 本番中だぞ」


サラがあわててセリフを言う。


「地球(ちちゅう)にょ、平和を乱すヴァリアンチュあ、ピアリッジが断じて見逃さにゃい!」


サラは顔を真っ赤にしてうつむいた。


「いっぱい噛んじゃった……」


「よっしゃ、まかしとき!」


ミカルが高々と飛び上がる。

ピアリッジたちは肉体を強化され、それに応じた戦闘訓練も行っていた。

十数メートルをとびあがりながら、バランスを崩さない。


ミカルの短いスカートがひるがえり、下着が丸見えになった。

鮮やかに空中で回転し、ミューズノートに飛び蹴りを放つ。


ミューズノートは突っ込んできたミカルをかわした。


ミカルは地面に衝突する。

足が地面に突き刺さった。


「やべぇ、抜けねー!」


マナセが言う。


「攻撃は変身してからですよ!」


「そそ、そうよ!

 変身しましょう!」


「お、おっけー!」


三人の姿が光に包まれる。

まばゆい閃光が消えるとともに、ドレスのような華やかな格好のピアリッジが現れた。


エリシャとルカの時には妙な色のジャージだったピアリッジ専用の戦闘服は、見栄えを考慮してミニドレス風に改良されていた。


三人は、ぎこちなくミューズノートとの戦闘を開始した。

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