第2話 これから一緒に頑張っていこう!

ヴァリアンツが日本に残した被害は甚大なものだった。


人から人へと伝染病のように憑依する性質から、日本国民は海外渡航を禁止され、また海外との貿易はその規模を極度に縮小せざるを得なかった。


さらに、次元振動炉を暴発させることで行われた大規模テロによって、東京大学先端研究センターを爆心地として半径一キロにおよぶ住宅地、オフィス街は消滅。

首都圏の広範な被害は、東京の風景を一変させた。

被害にあった渋谷駅周辺は、現在は立ち入り禁止区域として放棄されている。


また同じく大規模テロによる、筑波研究学園都市の壊滅。


そして、富士山の噴火。

これによる降灰による東京、名古屋、大阪の首都圏を含む交通、通信網の長期的な混乱と、国民の健康被害、および農作物の不作。


これらの国内に与えた大打撃のみならず、海外からの圧力も大きく、ヴァリアンツのテロ活動を抑止できない日本政府に対し、国連平和維持軍が首都圏に限り、暫定統治をおこなう案すら突き付けられていた。


が、時の内閣総理大臣の辣腕により、米国、中国の二大強国間が水面下で繰り広げている駆け引きを巧みに利用し、イギリス、EU、第三国を味方に引き入れることによって、日本はからくも内政干渉を免れることができた。


さらに、国内の情報統制を強化することで、日本のみが入手したヴァリアンツとピアリッジの技術的、生物学的情報が海外へ流出することをおしとどめ、異星人の技術を使用した新兵器の開発の可能性を示唆し、同時に国内に潜伏するヴァリアンツを不可触の疫病と演出することで、執拗な米国の干渉すら逃れることに成功した。


結果、日本は海外貿易は旧態に服したものの、日本国民は一部の許可を得たものを除くすべてが海外渡航を不可能とされ、また外国人も日本への入国を厳しく制限された。


ヴァリアンツ汚染を恐れる本土の在日米軍は、半年以内にほぼ撤収した。

代わりに、ヴァリアンツ汚染が存在しないと判断された沖縄は米国の統治下におかれ、島全体が要塞と化した。


日本は、半鎖国状態へと陥ったのである。


こうした国をとりまく情勢の激変と、テロによる破壊のもたらした国内生産力の著しい低下に対して、政府は非常事態宣言のもと、主要産業の基幹企業を国有化し、戦時計画経済を半ば強引に開始した。


給与は国債で発行され、食料、消耗品などは各個人に割り当てられた分量のみ、配給という形で配布された。


無償の労働力をねん出すべく、刑務所の犯罪者はもとより、生産活動に従事していないと判断されたものは拘束され、ボランティア活動と称する重労働へ導かれた。


また、ヴァリアンツ内通者、あるいは汚染容疑者として逮捕された者とその家族は、釈放されてもすでに社会から受け入れられることはかなわず、やむなくボランティア活動へと吸収されていった。

彼らの数は、膨大であった。


さらに、捕獲したヴァリアンツから得た技術情報をもとに、いまだ暴発の不安が残る次元振動炉を利用した発電所を建設、稼働させることで、エネルギーの自給自足に成功した。


これらの強権的な措置が速やかに行われたことによって、日本国は経済力、軍事力ともに、奇跡的に主要先進国の地位にとどまった。

国内の治安も、ヴァリアンツ内通、汚染容疑の容疑者による逃亡が相次いでいる以外は、きわめて平穏無事に治まった。


しかし、いまやヴァリアンツの残党は、政府がすべてその動向を把握できる程度にしか存在しておらず、国家に脅威を与えることなど、夢のまた夢、と言った体たらくであった。


戦時体制を維持するには強大な敵が必要である。


こうして、第二のピアリッジを編成する必要が生じたのだった。


***


「まだ日本には、強力なヴァリアンツの残党が潜んでいる。

 数こそ多くはないが、連中には次元振動炉を暴発させるという手があるからな。

 すでに、日本には世界で初めての次元振動炉を使用した発電所が建設されているから、事態は深刻だ」


会議室で、トビヒトが説明する。


かつて中央情報保全隊に属する自衛官であった彼は、作戦中の負傷によって除隊を余儀なくされていた。

かわりに、ピアリッジの保護、教導を担う民間軍事警備会社(PMSc)の経営者に収まっている。


トビヒトの前には、三人の少女が長いテーブルを前に、パイプ椅子に腰かけている。


八馬田(やまだ)サラ、多可端(たかはし)マナセ、威塔(いとう)ミカルの三人である。


性別は女性、年齢はいずれも14歳。

先代のピアリッジ、ルカとエリシャと同じ条件だった。


富士山麓の戦いにおいて、ルカとエリシャを失ったことで、ピアリッジの強大な力を軍事技術に転用することは不可能になった。

現在、活動しているルカとエリシャは、売れない役者が演ずる偽物であった。


さらに、生前のルカとエリシャの残した生体サンプル、および捕獲した複数のヴァリアンツを生体解剖をはじめさまざまな分析を施したものの、結果は芳しいものではなかった。


残念ながら、現在の技術では、ルカとエリシャに発現していた、肉体の強化現象のみしか再現できなかった。

しかも、施術しても14歳の少女にだけしか、能力は付与できなかったのである。


彼女らが放出した強烈なエネルギー波の再現はいまだに原理不明であった。


ともあれ、ピアリッジとヴァリアンツの戦闘は何度かテレビ局のライブ映像が配信されていたためか、政府がピアリッジを募集した時、意外なほどに多数の応募を受けた。


審査を担当したトビヒトは、彼女らに、衆に秀でた素質を見出した。


クールな外見のサラは、頭脳明晰、文武両道で、なにより正義感の強い真面目でしっかりした人格であった。


砂糖菓子のように甘い容姿のマナセは、勉学、体育共に平凡だが、可憐な面貌は誰もが目を止めるほどである。


今時のおしゃれに身を包むミカルは、勉強、見た目は人並み程度だが、運動神経は天才的なものを持っていた。


いずれも、未来の希望に目を輝かせている。


トビヒトは分厚いシナリオを各人に配布した。


「一応、ストーリーはこちらで用意してある。

 キミたちピアリッジは、ヴァリアンツを狩る必要があるから、すべてがこの通り進むとは限らないが、おおむねこんな感じでやっていく予定だ。

 この通りに進むと、半年後には、キミたちの映画ができることになる」


素直に喜ぶ三人。


トビヒトは続ける。


「ヴァリアンツは強大な敵だ。

 だが、われわれがバックアップするから、キミたちが危険にさらされることはない。

 これから一緒に頑張っていこう!」


「はい!」


三人は初々しく声をそろえた。

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