いつわりのピアリッジ
明日見が丘KY
第1話 スペシャルレインボーブリリアントシャワー!
東京都千代田区有楽町。
よみうりホールにて、映画試写会が催されていた。
各マスコミ関係者のみならず、内閣総理大臣も参加する国上げての一大イベントである。
その上映会場では、スクリーン上で、繰り広げられる激しい戦いが、四角く切り取られている。
戦闘のただなかにいるのは、年端もゆかぬ少女二人。
戦塵に汚れ、苦闘に顔をゆがめながらも、戦意は高く、つぶらな瞳をきらめかせ、爆炎と光芒のもとを駆け抜ける。
スクリーン上で、少女たちが叫ぶ。
『ついに追い詰めたわよ、ウェイルノート!
これまでの悪行……悔い改めてっ』
対する筋骨たくましい大男が、獰猛な顔で威嚇するように吠えた。
『地球人のごときクズどもが、俺様を倒せると思っているのかぁ?
お前らピアリッジだろうと、しょせん脆弱な地球人に変わりはねーぜ!
これまでの連中と同じく、一人残らず殺してこの惑星の肥やしにしてやるぞ!』
凶悪、狂猛な悪漢に、けなげに対抗する少女ふたり。
『一万人もの罪もない人を殺しておいて……その咎をかえりみない傲慢な態度!
もう我慢できない!!
いくよ、ルカ!!!』
『OK、エリシャ!』
ふたりの少女が手をつなぐ。
まばゆい光が二人を包んだ。
声を合わせる。
『スペシャルレインボーブリリアントシャワー!』
どっとあふれた光の渦が、敵を巻き込んだ。
「ウッソ。
うちらもあれやんの?
ダッせ。
サイアクじゃん」
試写会の暗闇の中、ぼそりとつぶやく声。
そのとなりから、別の声がささやく。
「しょうがないでしょ。
仕事なんだから、やれって言われたらするしかないじゃないの?
ダサいとかキモいとか、文句言わないの!」
さらに別の声。
「わたしはやりたいですけどねぇ。
カッコいいじゃないですか?
スペシャルレインボーブリリアントシャワー」
三人は、上映中の映画に出演しているピアリッジと同年代の少女たちであった。
「アホかよ。
なんで技の名前を言わなきゃなんねーんだよ。
ほんとに戦ってた時、そんなことしてたのかよ」
「わからないけど、これって映画だし、わかりやすくしてるんじゃないの?」
「必要なんですよ、これってコンビネーションでしょ?
お互いに息を完ぺきに合わせないと、ダメなんです。
ピアリッジの力は互いの愛情が源なので、ルカとエリシャの愛を確認するためにも……」
「オメーはもう黙れ」
「あなたはちょっと静かにしててくれる?」
「……はいぃ……」
雑談する三人をよそに、映画は続く。
スクリーンで、二人の少女がへたりこんでいる。
『もうだめ……力を使い果たしてしまったわ。
ここ、富士山の敵アジトから脱出する力がもうない』
『あきらめましょう……わたしたちの命で、地球を救えたなら、死んでも本望だわ』
『ルカ!
愛してる!』
『エリシャ!
わたしも!』
抱き合う二人。
そこへ、精悍な男が出現する。
『こんなこともあろうかと、脱出用のヘリを用意しておいたぞ!
総理大臣が、君たちのことを気にかけて、特別にまわしてくれたんだよ。
あの人は、日本国民ひとりひとりのことを特別大事に思って日夜働いているんだからね。
さあ、僕と一緒にくるんだ』
『トビヒトさん!』
『うわーっ、溶岩が顔にかかった!
だが、ピアリッジを助けるためなら、こんなケガなど、どうということはない』
さきほど雑談していた少女が、くすくすと笑う。
「あれって、マジでトビヒトさんじゃん。
スゲー棒読み」
「このシチュエーションって必要ですかねぇ?
ただの政府の宣伝ですよね」
「ちょっと!
あなたたち静かにしなさい!」
明るくなった会場に、映画にも出演していた二人の少女、亜良機(あらき)エリシャと、砂羽乃(さわの)ルカが登場した。
居並ぶマスコミ関係者および招待客は、興奮気味に拍手を送る。
雑談に興じていた三人も同様だった。
彼女らが、地球に侵攻してきた異星人、ヴァリアンツを撃退した英雄、ピアリッジであった。
去年のヴァリアンツ撃退の際に重傷を負い、もうピアリッジ活動からは引退していた。
しかし、ヴァリアンツの残党がいまだに日本に潜伏している状況下で、国民の意識を高めるために、NPO団体「ヴァリアンツ対策委員会」の会長として日夜日本各地を飛び回る忙しい毎日を送っている。
かたわらには、顔に醜いやけどを負い、義足をつけた九路打(くろだ)トビヒトがいる。
ピアリッジのマネージャーであった。
こののち、ピアリッジと総理大臣の講演が予定されている。
ヴァリアンツとの戦いが終息してから一年。
勝利を記念して制作されたセミドキュメンタリー映画「栄光のピアリッジ~輝けるルカとエリシャ~」は、ひとまず成功を収めたようであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます