第11話 俺と俺

 この試練の場では、空間転移の魔法が使用できない。

 海の城に戻る方法は一つだけだ。七つの試練の最後の場所にある“ゲート”を通ること。つまりは、七つの試練全てを突破しなければならないってわけだ。


『はやく王に報告しなければならないというのに……困りましたね』

「手っ取り早く戻る方法はないのか?」

『残念ながら、ござません』

「あっそ」

 この面子で試練を突破できるかな。最悪、マカロンと俺の力で無理やりどうにかするしかない。


 不意に、海の色が変わった。

 第二の試練の場に到着したようだ。

「ここは何だったっけか」

『水鏡の試練です』

「あー……あれかあれか」

 力づくで突破できないやつきたこれ。いや、“水鏡”ぶっ壊せばいけるかな。トリトンにものすごく怒られそうだが。


「あの、ちょっと、キミたち。ちゃんと僕にも説明してくれないかな」

「クララから話を聞いたことないのか?」

「試練のことは話してくれなかったんだ。まさか、こんなにも大変な試練を受けていたなんて……そんなことも知らずに、僕は……」

「おいおいギルバードよ、大変なのはここからだぞ。わかったような風に言うのは早いぜ」

「ははっ……そうだよね。頑張るよ」


 しばらく歩くと、巨大な“水鏡”が漂っているのが見えた。それはまるで、クラゲのようだった。

「あれが、“水鏡”だ」

「すいきょう?」

「あれは見るものの過去や未来を映し出すと言われているものだ。本物なのか、幻影なのか定かではないけどな。まぁ、つまりここは、自分と向かい合い、自分を超えるための試練だ」

「超えられなかったら?」

「死ぬだけだ」

 ギルバードの顔がまた青くなる。

「でも、確かこの場の一人だけでも突破できりゃいいんだったっけ?」

『はい、そうです。一人でも水鏡に認められれば、この場を抜けられます』

「どうせ俺はまた、自分との殴り合いだろうから楽だな。すぐに突破してやるから、心配するな」

「ふわーあ。あれ? まだ、試練というのは終わってないですか?」

「……ルナ、まだ寝てたのか。あ、来るぞ」

「わ、わ! なんですか、あれ! なんですかあれ!!」

 水鏡が膨れ上がった。それは俺たちを包み込んでいく。

 視界が徐々に暗くなっていく。



 そして、やがて、何の音も聞こえなくなった。



 しばらくすると、ぼんやりと、“そいつ”が姿を現した。


「よう。久しぶりだな、俺」

『ああ。久しぶりだな、俺』


 俺は、俺と対峙した。

 手にはマカロンがない。俺は、ゴキゴキと拳を鳴らす。俺も、ゴキゴキと拳を鳴らす。

「話が早くて助かる。さて、やるか」

『来いよ』


 俺と、俺の拳が交差した。

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