第10話 冥魚

 現れたそいつらは――冥魚(めいぎょ)。

 ウツボに似た姿をしているが、とてつもなく硬い表皮に覆われていて、魔法にも耐性がある。鋼を紙のように切り裂く刃物のような牙と、強靭な顎を持っている。しかも素早いときたもんだ。

 一匹一匹はさほど手強くない(俺にとってはだ)が、こいつらは厄介なのは群れで行動することだ。脅威度はあのバトルウルフ以上かもしれない。

 幸い、数は多くない。

 問題なのは、何故この冥魚がこんなところにいるかということだ。


「どうやら、俺たちを生かして帰すつもりはないらしいな」

『……どうして、こんな……』

 ギルバードよりも、鉄仮面の魚人の方が狼狽えている様子だった。

「おい、呆けているなよ。魔法、使えるんだろう? ギルバードを守っててくれよ」

『は……はい!』

 

 冥魚が、凄まじい速度で迫る。

「おらぁっ!」

 俺はマカロンで冥魚の頭部を両断した。こいつらは異様に生命力が高く、なかなか死なない。脳を破壊してやるのが一番手っ取り早いのだ。

『まさか、冥魚を放ったのは……クラーケン様でしょうか』

 後方から魔法で冥魚を弾き飛ばしながら、鉄仮面が俺に聞く。

 クラーケンというのは、トリトンの弟のことだ。クラーケンはかつて自分が海の王となるため、トリトンを亡き者としようと色々と暗躍していた。しかしそれも失敗に終わり、トリトンに冥海という暗い海に追放されたのだった。

「クラーケンの仕業なら、話が早くて助かるんだがな」

『? それはどういう……』

「ちっ、面倒だな。一気に抜けるぞ! マカロン!」

『はいよ』


 ――5割開放。

 “流れ”ごと、冥魚をぶった斬る。以前、この場所を突破した時と同じように。

「おらあぁぁぁっ!!」

 斬撃が激流となり、あらゆるを押し流していった。





「やはり、いとも簡単に突破しおったか」

「ちっ……アレは本当に、ニンゲンなのか? 古傷が痛んできやがる」

「だが、いくらあいつでもあの試練は簡単には突破できないだろう。戦力も分断したことだしな」

「地上残った連中はどう対処するんだ?」

「“駒”が向かった。様子を見るとしよう」



「そうだな。それでは今のうちに始めるとしよう。我らが計画を、成就するための準備を」

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