第9話 陰謀の気配
ギルバードはクララとの結婚記念日に、大規模なパーティを開いたという。
海の城から魚人たちも招き、それはそれは盛大なパーティだったという。
「大勢の人にあてられたのか、酒に酔ったのか……クララは気分が悪くなって、部屋に休みに行ったんだ。そのすぐ後に、独特な雰囲気の女性が僕に近づいてきたんだ。とても美しかったけれど、僕は怖いと感じていた」
その女性はギルバードにワインを差し出し、踊らないかと誘ったという。
「僕はワインに口をつけた。そこからの記憶がないんだ。気が付くと、以前僕が使っていた寝室のベッドに、裸でその女性と寝ていたんだ」
ギルバードは頭を抱えて震えた。それでも、歩みは止めない。
「そこからは大騒ぎさ。弁明の余地もない。騒ぎの中、その女性の姿も消えてしまって……僕はどうしていいのかわからなくなってしまったんだ。クララに何かあれば、海王トリトンは激怒するだろうし、そうなったら誰も止められない……」
「――その話、他の誰かにしたか?」
ギルバードは弱々しく首を振る。
「以前の僕の素行の悪さはみんな知っていたからね。何を言ったところで信じてもらえないし、言い訳にしか聞こえないだろう。僕自身、あの夜、意識を失っていた間に何があったのかはわからない。全てはその女性しかわからないこと。だから僕は、何もかもを飲み込んで、引き籠って、ただ震えていた……それしかできなかったんだ」
ギルバードが唇を噛みしめる。
「信じがたい話だが、それが事実なんだ」
「……信じるぜ、俺は」
「え?」
「他の誰も信じなくとも、俺は信じる」
「……レオン。信じてくれるのか……そうか……ありがとう」
ギルバードは弱々しく笑った。
ギルバードの話が本当のことかどうかを確かめる術はない。しかし、こいつはこんなしょうもない嘘を吐くヤツじゃない。付き合いは長くないが……こいつも曲がりなりにも“王”だ。ここぞという時には勇気をもって困難に立ち向かい、魔石に取り込まれた先代の王……自分の父親と戦った。
内乱によって疲弊した国を立て直したのも、ギルバードの力だ。もちろんそこには、クララを始めとする海の民の力添えはあったわけだが。
王としての資質を疑問視する連中は、幾度もギルバードを引きずり降ろそうと画策していたらしい。だが、そいつらは海の民の力を恐れ、俺たちが次の大陸を目指すころには鳴りを潜めていたようだ。
ギルバードの話だけでは何とも言い難いが、この事件はその連中の陰謀である可能性も考えられる。もしくは、海の王を怒らせ、人間との交流を断絶させようとする何モノかの意思か。
『それは虚偽です。彼の言い逃れに過ぎません。レオン様、どうしてそのような者の言うことを信じられるのですか?』
「……お前は、信じられないのか?」
『――え』
鉄仮面の魚人は、身を硬直させていた。
……ふぅん。なるほどね。
しかし、こうなると話が変わってくるな。この状況もその何モノかの計画の内なら、してやられたという感じだ。
まぁ、地上にはアイやルドルフがいるから何かあっても対処は可能だろう。問題は、こっちだ。嫌な予感しかしない。
その嫌な予感が、具現化されたかのように、そいつらはゆっくりと姿を現した。
「わ、わ、な、何だあれは!?」
「下がってな、ギルバード。あいつらは――危険だ」
俺はマカロンを手に取り、身構えた。
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