第3話 怯えるギルバード
『こりゃあ、多重結界だな。なんつーめんどくせぇ式だこれ』
マカロンからため息のような音が聞こえた。
「それで……この結界は破れるのか?」
『アイの魔力なら無理やりこじ開けられるだろうが、破った途端に何か別の魔法が発動する仕組みになっているな。誰だこんなめんどくせぇ結界つくったのは』
「ふむ。ならお前を叩きつけて壊すか」
カイルのトコの結界を壊した時みたいにな。
『やめて、ホントやめて。マジでやめて、今何とかするからやめて』
そう言ったきり、マカロンは無言となってしまった。
「おい、はやくしろ」
俺はマカロンをガンガンと殴る。
『いてぇ! 少しくらい待てって! 今、集中、しゅーちゅーしてんの! ったく……例えるならこいつぁ、大陸級のダンジョンに1000個くらい入口があって、その中に正解が1つしかないようなモンなんだよ。しかも10分ごとくらいに正解の場所が変わるみてぇだ。とにかく解析に集中させてくれ。10分以内にカタをつけねぇと、また振り出しに戻っちまう』
なんかよくわからないが、えらく大変みたいだ。ここは黙って、マカロンに任せるとしよう。
「マカロン、頑張るですぅ!」
「ルナ!? ついてきたのか!?」
「はいです!」
ルドルフに預けてきたはずなのに……あの野郎、ちゃんと見てなかったな。まぁ、きてしまったものは仕方がない。
「マカロンならやれるです、頑張るですよ!」
『うるせー! 耳元的なところでうるせー! ってあれ? なんだ……どうして急に? ここをこうして、ああして……わかった!』
その瞬間、城の周囲を覆っていた結界が消えていくのがわかった。
「やるじゃねぇか、マカロン」
『お、おう。とにかく城の中に入れ。城の連中が気づいたらまた、結界を張るだろうよ』
俺たちは急ぎ、城の中へと向かった。
「何者だ! 結界をどうやって抜けてきた!」
兵士が槍の先を俺に向けた。
「あ! あ、貴方はレオン様!? し、失礼しました。どうしてここへ?」
「ちょっとな。ギルバードのやつに会いに来た」
「王に? しかし王は今――」
「わかってる。部屋に引き籠っているんだろう。ちょいと邪魔するぜ」
「は、はぁ……」
突然の来訪者である俺たちに兵士たちはかなり動揺しているようだったが、快く道を開けてくれた。みんな表情は暗く、憔悴しているようだった。そりゃあ無理もないか。自分たちの王が海の王様を怒らせた挙句、引き籠ってしまっているのだから。
ギルバードの部屋の扉は、これまた結界やら何やらが厳重に守っている。尋常ではない怯えっぷりが伺えるな。
マカロンとアイが協力し、その扉を開くことができた。
「ギルバード! いるか!」
俺は薄暗い部屋へとずかずか踏み込んだ。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!」
がさがさと音を立て、部屋の隅に逃げていくやつれた男がいた。
――ギルバードだ。
王の威厳なんざ全く感じられない。前はもうちょっとマシだったはずなんだがな……。
「ゆ、許してください! どうか命だけはー!」
涙と鼻水でぐじゅぐじゅだ。
「落ち着けギルバード。俺だ、レオンだ」
「へ……あ……あぁ、なんだ……キミか……。久しぶりだね……」
ギルバードは涙やら鼻水やら汗やらを拭い、よろよろと立ち上がった。
「事情はある程度聞いている。さ、行くぞ」
「え? あ、あの……どこへ?」
「決まっているだろ。海王のとこだよ」
「い、いやだ! いやだ! 行ったら殺される! ゼッッッタイに殺されるよ!」
「とにかく、死ぬ気で謝れ」
「そ、それで許してもらえるかな?」
「それはわからん。まずは謝るんだ。そこからだろ」
「う、う……いやだ、やっぱりいやだー!!」
こ、このやろう。
仕方ない。無理やりひっぺがして連れていくか。
「レオンさん。わたしが話してみます」
今は魔法で人間の姿になっているアイが進み出た。
「そうだな……俺じゃちょっと説得できそうにない。頼むぜ」
「はい」
アイはにこやかに言った。
俺は胸の痛みを抱えながら、部屋の外に出た。
一時間くらい経ったろうか。ゆっくりと、部屋の扉が開き、アイがひょこっと顔をのぞかせた。
「レオンさん、どうぞ」
「あ、ああ」
部屋に入ると、部屋の片隅でギルバードがうずくまっていた。
「……外がそんな大事になっていたなんて、知らなかった」
「ああ。人類の危機ってやつだ」
「……僕が、僕が行くしかないんだね」
「そういうことだ。安心しろとまでは言えないが、俺がついている。まぁ、任せておけ」
「……すまないね。頼んだよ」
アイが何を言ったのかわからないが、えらく落ち着いたもんだ。第一段階突破ってところだな。ギルバードの気が変わらないうちに海王のところに行かなければ。
ギルバードを連れて城を出た俺たちは、アイの空間転移で船へと戻るのであった。
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