第二部 鎮魂歌

序章

隠者

 大小様々なフラスコが並んでいる。

 淡い青の液体で満たされたそれは、薄闇の中、瞬くように静かに輝いている。

 広間の最奥には、巨大な人型の何かが膝を抱えて座っている。

「……ついに完成しましたな」

「王国に対抗する手段はできた。後は研究を完成させるだけ……」

「――いえ。これではまだ、十分とは言えないでしょう。ゴーレムの量産を急ぎなさい」

 男は、丸い眼鏡の真ん中のブリッジを、左手の中指で持ち上げた。

 そう。これではまるで足りない。王国を相手にするにも、“あの男”を相手にするにも、さらなる戦力が必要だった。

 

 ――長かった。


 しかしもうすぐだ。もうすぐ、すべてが報われる時がくる。

 最後に立ちはだかる障害は、間違いなく“あの男”だろう。ならば、挑むまでだ。

 

 理想の世界を実現するために。

 新たな理を得て、生まれ変わった世界を導くために。

 苦しみのない世界のために、最後の戦いに臨もう。


 男はひときわ大きなフラスコの前に立った。

 液体の中、女性が膝を抱え、うずくまるようにして眠っている。


「待っていてくれ。必ずや君を……取り戻してみせる」

 男は笑みを浮かべ、フラスコの中の女性を愛おしそうに見つめていた――。

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