闇の中の光

 この世界は汚い。この目に映るものすべてが汚く見えた。

 血と膿と漂う腐臭にあふれていく世界。どうして人は争いをやめないのだろう。どうして人は平気で他者を傷つけるのだろう。どうして人は世界を汚すのだろう。


 見たくないものならば、見なければいい。

 彼女はそうして、自分の目を自ら傷つけた。

 闇が訪れた。

 しかし、不自由はなかった。生まれつき高い魔力を持つ彼女にとって、目が見えなくなることなど些細なことだった。


 ――いっそのこと、世界も闇に閉ざされてしまえばいいのに。ほんの一瞬、思ってしまう。彼女はその思いを振り消し、役目をただこなすだけの毎日を繰り返す。

 それですべてが終わるなら、それでよかった。しかし、虚しさは募るばかりだった。どうすればこの空っぽの心は満たされるのだろうか。

 ひび割れていく心。何もなく過ぎていく日々に変化が起こったのは、突然のことだった。


 彼女は初めて、自らの目を傷つけ、見えなくなったことを後悔した。


 “彼”の姿を見たい。強く想った。

 自分でも何が起きたのか理解できなかった。何故、こんなにも“彼”の存在に惹かれるのかも。

 そう、きっかけは――だった。ほんの些細なこと。


 日々、想いは強くなるばかりだった。

 気の迷いだと想いを打ち消そうにも、それはあまりにも大きな感情だった。

 すべての感情を殺したはずだったのに……。

 

 忘れるんだ。この気持ちは知られてはいけない。誰にも。

 自分の胸の中に抱えたまま、生を終えるんだ。


『本当にそれでいいのか? 苦しいだろうに』


 それでいいに決まっている。

 だって自分は――


『願え。望め。それを叶えるための力を……くれてやる』


 それは悪魔の囁き。闇の声。


 しかし、深い闇の中、彼女は確かな光を視た。

 



 そして彼女は――決断するのであった。

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