第11話 魔王の記憶…

「レオンさん! 大丈夫ですか!?」

「わぁ! レオンちゃん、血だらけですー!」

 アイとルナがやってきた。

「ああ、大丈夫だ。これは魔獣たちの返り血だ。それよりなかなか面倒なことが……ってルナ、そのでっかい白い石は何だ?」

 ルナは大きな白い石を重そうに抱えている。

「これは魔石ですぅ」

「魔石!?」

 しかしルナが持っている石からは瘴気が放たれていない。あのドス黒い嫌な感じもない。

 俺とアイは、お互いに起きた出来事を話した。


「――それで、2人の黒い妖精を捕縛したんですけれど、1人が自爆して……。防御壁で身を守っている間に、逃げられてしまいました」

「そうか……アイたちが無事でよかった。ルナ、お手柄だったな」

「えっへんです!」

 ルナが胸を張る。

「しかしこの魔石、他のものとは違うみたいだな」

 俺はルナから白くなった魔石を受け取って、眺めてみた。

「他のものよりも大きくて、形も違いますね」

 考えたところでこれが何なのか、俺たちにはわからない。ヴォルグ……いや、アンヘルに渡して調べてもらうのがよいだろうか。


「あれ? この石、何か喋ってるみたいですよ!」

「はぁ?」

 ルナが石に耳をつける。

 俺も耳を近づけてみたが、何も聞こえない。

「レオンちゃんには聞こえないですか?」

「ああ、全然」

 やはり何も聞こえない。

「わたしにも何も聞こえないです」

「えぇ~? どうしてルナには聞こえるですか?」

「いや、わからない。マカロンはどうだ? 何か聞こえるか」

『いんや? 何も聞こえねーな』

「おかしいですねー」

 ルナはこんこんと石を叩いた。すると――石がまばゆい光を放ち始めた。


 その次の瞬間。

 石は、溶けるように消えてしまった。

「どうなってるんだ、こりゃ。おい、ルナ……どうした」

 ルナは俺の手の上で硬直している。つついてみても微動だにしない。瞬きもしない。



「あーーーっ!!」



 しばらく静止していたルナが急に大声を出したので、少しびっくりしてしまった。こいつ、声でかいんだよな、何気に。

「お、お、思い出したです!」

「! 記憶を取り戻したのか!?」

「はいです! ついに思い出したですよ!」

 それはつまり、魔王としての記憶を取り戻した……ということか。

多くの謎に包まれていた、魔王という存在が、明らかになる時がきたというのか。


そしてルナは、ゆっくりと口を開いた。そこから飛び出た言葉は、俺たちにかつてない衝撃を与えることになる。






「ルナの大好きな食べ物は――ハンバーグですぅ!!」


 ド ン !


 ……。




「そ、それじゃあ、宿に帰ったらハンバーグ作るね」

「わーい! やったですぅ! アイちゃん大好きですぅ!」

 何か一気に力が抜けてしまった。しかしハンバーグとはまぁ……いや、いいんだけどよ。

 瘴気の抜けた魔石は、消滅してしまうのか。

 ……とりあえずはこれで、魔獣が増えることはなくなるはずだ。念のため、明日、出発前にもう一度周辺を見て回るとするか。


『なぁ、レオン』

「なんだよ?」

『……いや、なんでもねぇ』

 マカロンの動揺が、感覚として俺に伝わってきた。

 こいつがここまで動揺するのは、ガンテツのじいさんに鞘を作ってもらった時以来かもしれない。あ、そうだそうだ思い出した。近いうちにまた依頼しなきゃな。

 それにしても気になるのは、黒い妖精の動向だ。あいつらと魔石をどうにかしないと、リキッドみたいに、悪意に取り込まれるやつが増えてしまうことになるだろう。

 色々と情報を掴むためにはやはり、世界樹の森へと行くしかなさそうだな。最悪の最悪は、クインの力を借りればどうにかなるだろう。たぶん。


「ハンバーグと聞いたら、なんか腹減っちまったな……宿に戻るか」

「それじゃ、わたしとルナちゃんはお料理のお買い物してきます」

「わーい! ハンバーグ、ハンバーグ!」

 ルナは垂れそうになったよだれを、じゅるりとすするのであった。

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