第10話 人形使いの影

 俺の手が、結界ごとヨハネスを貫く。


 ――驚いた。こいつも“人形”だったのか。どおりでヨハネスのじじいにしては魔力が弱すぎると思った。それにしても、なんて精巧に作られた人形なんだ。本物の人間と変わらないぞ。


「ほっほ。やはりこのまがい物の身体ではレオンの相手にならんか」

「胸糞悪い人形だぜ。ヨハネスのじじいみたいに笑うんじゃねぇ」

 頭を砕こうとしたが、人形のヨハネスはすすっと遠ざかっていった。

「てめぇも人形なのか、リキッド」

 俺の手からヨハネスを“盗んだ”リキッドは、やはり笑っていた。

「くくっ。おれは人形じゃねーよー。なぁ、レオン。こいつはただの人形じゃねぇんだぜー。ちゃんと、生前の記憶を持っているんだー。ま、そっちの人形のアイちゃんはまたちょーっと別モンなんだけどよ」

「何を言っている?」

「お察しの通り、この人形は“人形使い”の作ったモンだー。前のよか数段イイ出来だろー? なんたって、元となった人間の“骨”やら”血”やらを素材に混ぜて作った特製品だからなー。くくくくくくくくくく」

「――何だと?」


 まさか、あの“人形使い”の野郎……ヨハネスの墓を荒らしたっていうのか? 悪趣味に磨きがかかっていやがるみたいだな。あの時、あいつの作品とやらを全部ぶっ壊して心を砕いてやったってのに……なんて懲りないやつなんだ。さらにムカムカしてきたぜ。


「おおおっと、それ以上怒らないでくれよー。時間稼ぎもできたし、今日はこれで退散させてもらうからよー」

「逃がすと思っているのか」

「逃げるともさ」

 リキッドが何か黒いモノを投げた。

 これは――!


 黒いそれは、大爆発を起こした。俺は瞬時に飛び退き、それをかわしていた。

炎の大魔法が込められた魔道具、か。濃い煙が立ち込めて、何も見えやしない。してやられた。


「くくっ、まだ勘を完全に取り戻しているわけじゃなさそーだなー、レオン。ま、今のをかわすのはさすがだが。そんじゃ、また会う時を楽しみにしてるぜー」

「おい、待ちやがれ!」


 くそっ。きっちり置き土産おいていきやがったな、あいつら。

 グルルルと唸り声が聞こえる。一瞬現れた鋭い気配は、瞬時に煙に紛れた。この気配のなさは、バトルウルフか。さらに他の魔獣たちも集まってきているようだ。ムカツクぜ……きっちりぶちのめしてやる。


 俺は連中に向かって、突撃した。

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