第6話 熱帯夜、再び(後)

「ねぇ、レオン」

「ん?」

「アタシね、今も“あの夜”のことを思い出すと、体が火照っちゃうの」

「ぶっ!!」

 忘れようとしていたことを思い返してしまい、盛大に酒を噴き出してしまった。もったいない。

「レオンはどうなの?」

 ミネアの顔がすぐ近くにある。

「だからよ、こんなトコ、ルドルフに見られたり聞かれたら」

 口を塞がれた。

 長い舌が、俺の舌に絡みついてくる。

「――あの時の続き、してもいいのよ」

「っ……! お、お前な、そういう冗談やめろよ。悪質だぞ!」

 また口を塞がれる。こいつ、本気か? 本気なのか?


「お、おい。ルドルフと何かあったのか?」

 ミネアは応えない。それが何かを物語っていた。

 ルドルフは生粋の船乗りだからな……なんとなーく予測はつく。大方、他の港で女作ってたとか、そんなことだろう。ったくあの野郎。容赦なくぶん殴ってやる。

「いったん落ち着け、落ち着こう、落ち着きましょう、な? 一時の気の迷いで過ちを犯しちゃいけない。それに俺にもアイという――」

 ミネアはウンディーネの涙を口に含み、俺に口づけした。思わず俺も舌を動かしてしまい、再び舌と舌が絡みついた。

「レオン。アタシ、アンタと触れ合ってわかったの。アタシが求めていたのは、大地にずっしりと根を張っているような、強く逞しい人だって」

「おおおお俺はそんな感じのヤツじゃないですよ?」

「お願い、レオン……ワタシを受け入れて。抱きしめて。ちゃんと、誰にも知られないようにするから……ね? お願いよ」

 潤んだ瞳に見つめられてしまったら、動けなくなってしまう。

 ダメだ。わかっているだろう、俺。そんなことをすれば取り返しがつかなくなることくらい。ミネアを振りほどいて行くんだ、俺。仲間を裏切るつもりか、俺。

 アンヘルに続いてこの状況……どうなっているんだ。俺に何が起こった!?


「さ、行きましょ」

 ミネアに腕を引かれる。

 振りほどくのは簡単なはずなのに、手が動かない。

 なんでだ、どうして、俺は動けずにいる。


 俺はミネアに導かれるまま、歩き始めた。

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