第4話 不意打ち

「――そうか。王国でそんなことが」

 俺はアンヘルから、王国で起きているいくつかの事件について聞いた。

 中でも、王国の地下からゴーレムが盗み出された件は、レムがさらわれた件と何か関りがありそうだと感じた。

 俺もこれまでの旅のことを話した。まぁ、念のためだが、カイルのことは伏せておいた。こいつが王と直接関わりのない部署にいるとはいえ、何らかの形で連中にカイルのことが知られたら少々面倒なことになりかねないからな。

「ふむ。これはやはり、あの黒き妖精どもの仕業か……」

「妖精? そういやお前、妖精に気をつけろって言ってたよな」

「ああ。全ての妖精がそうであるわけではないのだがな。新たに発生した妖精の中に、“魔王の因子”を持つものが現れだしたのは……2年ほど前か。やつらは魔石をばら撒き、モンスターを暴走させたり、魔獣を生み出しているようだ。見つけ次第討伐し、魔石は破壊しているのだが、被害は世界中に及んでいるようだ。範囲が広すぎて、手が回らなくなってきているのが現状でな」

「ふぅん。俺にその黒い妖精退治やら魔石壊すのを手伝えってか」

「そういうことだ」

「ま、別にいいぜ。世界に起こっている異変に関しては、どうにかしなきゃなって思っていたところだ」

「ありがたい。なお、魔王の因子を持つ妖精はみな、黒い髪をしている。瘴気も放っているからすぐにわかるはずだ」

 黒い髪の妖精……。ルナも魔王の因子ということだが、髪の色は違うし、瘴気も放っていない。どういうことなのだろうか。話しがややこしくなりそうだから、ここは黙っておく。

「代わりといっちゃあなんだが……」

「わかっている。レムの件だろう。新たな情報が得られれば、“貝”でお前に伝達しよう。魔王の因子との関りがあるのか、それともゴーレムを盗んだ輩と関りがあるのか……必ずや突き止めてみせる」

「ははっ、ずいぶんと仕事熱心だな。まぁ、真面目だもんな、お前」

「新たな使命を全うしようとしているだけだ」

 アンヘルは席を立ち、俺の方を向いた。

「もう行くのかよ? 夜はまだこれからだってのに」

「ああ。有益な情報を得られたからな。感謝する」

 有益な情報だと? そんな重要なことを話しただろうか、俺。

 アンヘルは一度、酒場の入口の方を向いたが、また俺の方を向いた。

「……そういえば、ちゃんと礼を言っていなかったな。ありがとう、レオン」

「ど、どうした急に」

「お前が私を、魔王の呪縛から解き放ってくれたんだ。死に場所を求め、さまよっていた私に、新たな生きる場所を見出してくれた。本来であれば、私のような存在はこの世界に不必要だったはずだ。お前だけだ……私を恐れず、全力でぶつかり合ってくれたのは」

「お前の口から、そんな言葉が聞けるなんてな。それで十分さ。また、美味い酒でも飲みかわせりゃ、最高だぜ」

「……私が、お前に、お前だけに本当の名前を明かした理由がわかるか?」

「え?」


 時が止まったかと思った。


 アンヘルが髪をかき上げたと思ったら、その顔が俺の顔の前にあった。


 俺の唇と、アンヘルのぷるんとした桃色の唇が離れる。


「また会う時を楽しみにしているぞ、レオン」

 アンヘルは、すっと姿を消した。


「……え?」

 

 何が起きたのか、俺は理解するまで、ずっと、硬直していた。

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