第十章 出航!

第1話 やわらかな再会

 俺たちはアイの空間転移の魔法で、再び水の大陸ルクイッツァにやってきた。

 世界樹の森がある島には強力な結界が張られているので、空間転移で行くことができない。となれば船で行くしかないのだが、島の周辺の海は荒れている上に“守護獣”という巨大な獣もいるため、そこらの船ではたどり着くことは不可能だ。

 そこで、ルドルフの船の出番ってわけだな。かつての旅で、俺たちを乗せ、世界中の大海原を駆け巡った“白鯨号モビーディック”なら、どんな荒波もモノともしないだろう。


「そろそろ来ると思って準備しておいたぜ!」

 港にたどり着いた俺たちを、ルドルフが「がっはっはー!」と出迎えた。

「わぁ! でっかい船ですぅ!」

 ルナがぶーんと飛び回ってはしゃぐ。

「あ、ルドルフさん、お久しぶりです!」

「おぉ! ん? アイ? アイなのか?」

「はい。色々とありまして」

「……そうか。大変だったんだな」

「はい」

 このやりとりで大体伝わるのがありがたい。

「お前にしちゃずいぶん気が利いているじゃねーか!」

「ごふっ!」

 俺はあいさつ代わりにルドルフを殴った。そこそこの巨体が宙に浮く。

「あつつつ……。まぁ、よからぬ噂も耳にするようになったからな。世界に何かありゃ、オレ様たちの出番だろ!」

『そうだ、オレ様たちの出番だ!』

「おう、魔剣! 久々だな!」

 オレ様キャラ2人うぜぇ。まぁ、船借りるんだしここは我慢しておくか。

「ところであの飛んでいるのは妖精か?」

「そうだ。まぁ、積もる話はまた後で。こいつ、すぐ動かせるのか?」

 俺は海に浮かぶ船を見た。


 白銀に輝く、美しい、大きな船を。


 空と海の青のはざまで、日の光を受けてまばゆく輝く純粋なる白。それは見る者すべてを魅了する。それは至高の芸術品とも呼ばれる。誰もがこの船を前にすれば、言葉を失い、立ち尽くすだろう。

 かつての戦いで半壊し、見るも無残な姿になっていたが、すっかり元通りになっている。


「すぐにでもといいたいところだが、ちょいと人手が足りなくてな。最終調整含めて2日ってところか。急いでいるみてぇだが、ここはちょっと羽を伸ばしておくこったな」

「わかった。とりあえず宿を――」

「あ、レオン!」

「うおっ!」

 船の上から俺に向かって飛び降りてきたのは……ミネアだった。

 かろうじて受け止めたが、顔が胸に埋もれてしまった。

「また来てくれたんだね! 嬉しい!」

 ぎゅーっと抱きしめられた俺は、凍りついた。

「お、おい、ミネア! ひっつきすぎじゃねぇか、そいつに! やっぱり何かあったのか!? そうなのか!?」

 ルドルフは泣きそうな顔でおろおろとしている。いや、こいつはどうでもいい。俺はぎくしゃくと振り返る。

「――レオン、さん?」

「いや、あの、これは」

 怖い。アイが怖い。スライム娘状態だから表情わかんないけど、すごく怖い雰囲気が俺をちくちくと刺してくる。

 ミネアは不敵に微笑み、俺の腕に自分の腕を絡めてきた。

 胸がやわらかいけど! やわらかいけど!

 

 どうしてこうなった!!!

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