第6話 突破

 剣で目玉を斬りつける。目玉は「ぎぎぎぎ」と音を立てて、黒い霧のようなものになって消えていった。紙のようにサクサク斬って倒すことができるけれど、数が全然減らない。

「いちいち相手にしていたらキリがないわぁん。走って抜けるわよぉん」

 3階層は5つの広間が直線に並んでいるだけの単純な構造だという。ただ、その距離はとてもとても長い。

 しばらく走ると、目玉たちと戦っている他のオークたちの姿が見えてきた。

「新手か!?」

「いや、違う。人間の娘と……“鬼蜘蛛”だ。鬼蜘蛛のセエレだ!」

 オークたちがざわめく。

「なんだって? アンタ、鬼蜘蛛だったのか」

 セエレさんに背負われているオークも驚きの声をあげた。

「その名前で呼ばれるの好きじゃないのよねぇん」

 セエレさんは不機嫌そうに唇を尖らせた。

「おい、ジン。上に助けを呼びにいったんじゃなかったのか?」

「駄目だ。上の階層にもやつらが大量発生している」

「なんてこった。どうすればいいんだ」

 オークたちはみんな疲れた顔をしている。目玉たちはゆっくりと、ゆっくりと近づいてきている。

「あなたたち、ついてきなさい。瘴気の大元を絶ちに行くわよぉん」

「な!? しかし、下の階は……」

「このままやられるか、抗うか。考えている間はないと思うけどねぇん」

 セエレさんはそう言って、走り出した。僕もそれに続く。

 オークたちは戸惑っていたが、やがて僕たちの後に続いて走り始めた。


 ――ガチガチガチガチ。


 目玉の次に現れたのは、口だった。口しかない黒い球体が歯を鳴らして飛来してくる。そいつは目玉よりも速かった。

「むぅん!」

 オークがこん棒のようなもので球体を叩きつぶす。折れた歯が地面に落ちる。

 僕も剣で球体を斬りつける。やっぱり手ごたえはほとんどなかったけれど、球体は黒い霧となって消滅した。

 僕たちは道を塞いでいる最小限だけを相手に進んだ。

 途中で他のオークたちも合流した。

 こんな状況じゃなければ、僕はこのたくさんのオークたちを相手にしながらダンジョンを攻略しなければいけなかったわけか。戦いぶりを見てると、かなり手ごわそうだ。でも今は、心強い味方だ。

 セエレさんの背中で休んでいたオークも動けるようになり、戦列に加わった。

 僕たちはその勢いのまま、第4階層へと続く階段へと到達した。

 何かすごく嫌な空気が流れてきている。

「瘴気が濃くなっている……まずいな」

「どこまで意識を保つことができるか……」

「足を止めるな! 気合で突っ切るぞ」

「応ッ!」

 オークたちが怒号を飛ばしながら階段を駆け下りていく。僕はその気迫にただただ圧倒された。


「クレスちゃん、聞いて。もしワタシが瘴気にやられて暴走しそうになったら……その剣でワタシを、殺して」

「え?」

 僕はセエレさんを見た。顔色は悪く、汗ばんでいる。

「で、でも、魔石を破壊できれば元に戻るんですよね?」

「見たところ、クレスちゃんはあまり瘴気の影響を受けてないみたい。最悪、暴走したワタシやオークたちとやり合いながら、魔石のところへ行かなきゃいけなくなるかもしれないわぁん。敵は少ない方がいいでしょう?」

「そんな……」

「クレスちゃんを傷つけるくらいなら、死んだ方がマシよぉん。大丈夫、そんな顔しないで。何とか耐えてみせるからぁん。さ、行きましょ」

「は、はい」

 僕がセエレさんを……? そんなこと、できるわけない。

 考えちゃダメだ。やるべきことは一つ。一刻も早く、魔石を壊すことだけだ。


 そして僕たちは4階層へと降り立った。

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