第10話 さようなら

 声が、声が聞こえる。


『おかえりなさい、セレスティア様』

 ああ。

 みんな、こんなにも近くにいてくれたんだ。

 長い長い眠りから覚めた気分だった。頭の中のもやもやが消えて、色んなことがわかるようになった。クイン様から流れてきた膨大な情報も理解することができた。

「あらあら。セレスティアお姉さま……ダメじゃない、“戒め”を解いちゃ。あいつの傀儡のままでいればよかったのに」

 わたしは自分の役割を知った。そしてお父様の計画の全ても。

 涙が溢れて止まらない。

『セレスティア様を泣かすやつは許さないだよ!』

 尖ったキュウリさんやレタスさんが飛び、アルルに突き刺さっていく。

「みんな……ごめんなさい。わたし、わたし……」

『セレスティア様。ありがとうございます。あなたは約束を守り続けてくださいました。この土地を、そして私たちの魂を守り続けてくださいました』

『んだんだ! 後はおいしい野菜を作るだけだぁな』

「みなさん……」


「独り言をぶつぶつと……! このぉっ!」

 アルルがお野菜さんを振り払う。

 そうか。もう、アルルには聞こえないんだ。

 魂や、精霊たち、そして植物たちの声が。本当に、魔王の眷属になってしまっていたんだ。あの優しく、誰よりも美しかった子が……なんて悲しいことだろう。

 お野菜さんたちが怒りの声をあげた。この子たちは、昔のようにみんなと共に在りたかっただけ。それなのに、アルルの発した瘴気の影響で、ずっと苦しい想いをして……。悲しい。悲しい。悲しい。


「ふふ、うふふ。泣いているのがお似合いな、かわいそうなセレスティアお姉さま。そのまま私の糧となりなさいなぁぁ!」

 地中から緑の槍が伸びてきている。わたしを貫き、わたしの何もかもを取り込むつもりだ。

 ならば、わたしはそれを受ける。アルルの攻撃を利用して、力を流し込めばいい。わたしはこの命の力を使って、アルルを消滅させるつもりだった。あれはこの世にあってはならない、恐ろしい力だ。この場でアルルを止められるのは、わたししかいない。

 それに……わたしの存在は、やがて災いになるかもしれないんだ。このままいなくなってしまった方がいいんだ。


 いくつかの槍が飛んできた。

『セレスティア様! ダメだ! 逃げてくんろ!』

 みんな。いつもそばにいてくれてありがとう。


 そして、さようなら。

 

 わたしは“死”を受け入れ、目を閉じた。

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