第11話 死神

 右の肩、そして左脚、そしてわき腹を、植物の槍が貫いた。

「……ダガー……さん?」

 ドリアードの顔は、顔中涙で濡れている。どうも女の涙は好かない。

「生きることを、放棄するな!」

 口から血が飛ぶ。この程度の痛みなど、今まで味わった苦痛に比べれば大したことはない。意識を強く保て。俺は大声をあげた。

「生きたくても生きられなかった命がどれだけあると思っている!」

 俺は脚から槍を引き抜いた。血が熱い。

「ここを豊かな土地にするんじゃなかったのか!? キサマの夢とやらを、そこらへんに放り投げていくな!」

「でも……わたし、わたしは……」

「キサマの抱えている事情など、おれにはわからん。だが、誰しも……生きてさえいれば、次に繋げていけるものがあるはずだ」

 肩、そしてわき腹の槍を引き抜く。

「おれの前で死ぬんじゃない。誰かが死んでいくのを見るのは、もうたくさんなんだよ、こっちは!!」

 目がかすんでくる。寒くなってきた。

 だが、俺は笑った。


「あらあら。みーんな死ぬのよ。ここでね!」

 植物が鞭のようにしなり、おれをうちつける。正確にはおれの前の空間を、だが。

「あらあら?」

 植物が焼き焦げたようになっているのを見て、アルラウネの表情が凍り付いた。

「散々血を流させてくれたからな。これでクリムゾンの本領が発揮できるってわけだ」

 おれの血を吸い、クリムゾンは力を増大させている。久々の人間の血を受け、喚起するかのように震えている。

 漆黒の炎に包まれたおれは、アルラウネにむかって走る。

「い、いやあぁっ! くるなぁっ!」

 樹のような巨大な植物がおれに向かってくる。炎はそれを一瞬で溶かしてしまう。

 おれはアルラウネの頭に掴みかかる。

「ぎやああぁぁぁぁぁっ!!」

 アルラウネは凄まじい速度で後退したが、その右腕を焼き溶かしてやった。

「ちくしょう! ちくしょうちくしょう! ちくしょう!! ニンゲン如きがぁぁぁぁっ! 覚えていろ、必ず、必ず貴様らをぶち殺してやるからなぁぁぁぁっ!!」

 アルラウネが高速で、跳んだ。逃がすか。

 おれも跳んだ。しかし、そのまま地面に落ちてしまった。


 身体が動かない。血を失いすぎたか。

「ダガーおにいさん!」

「だんなぁ!」

「ダガーさん!」

 声は聞こえるが、もう、姿はぼんやりとしか見えない。


 闇の中から、骸骨が這い出てくる。その姿ははっきりと捉えることができた。


 お前か。久しぶりだな。



 おれの、死よ。



 骸骨は嗤う。

 骸骨はおれを掴み、冷たい闇へと引きずり込んでいった。

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