第7話 真の狙い
何も起こらなかった。
「あれ? あれれ?」
リゼが首を傾げる。
『アイ、オマエこの魔法陣の式がわかったのか?』
「アイさんだろこの野郎」
『いてえ!』
俺は両腕と両脚の氷を砕き、マカロンを叩いた。
マカロンの問いに、アイは首を振って応えたえる。
「とても複雑なのでわたしにはわかりません。ただ、魔法陣に流れていたリゼさんの魔力をうまく逆流させて、今発動している魔法を打ち消してみました」
リゼが驚く。
「うえっ! 理屈わかってもそうそう簡単にできねーっスよ、それ! どういう方向で、どう魔力が流れているのか把握できるなんて……アイさんもやっぱとんでもねーっス……ぐえっ」
レムの拳がリゼの腹部にめり込んだ。リゼの身体が宙に浮く。あれは普通の人間にはかなり堪えるだろう。
「うぐぐ。ゲ〇でそうっスー! こ、こうなりゃ奥の手! ブリザード……ぎゃふん!」
宙に浮いたリゼを俺がべちんとはたき落とした。落ちたところを、アイが魔法で拘束する。
「ここまでだな。誰に操られているかわからねぇが、俺たちを侮ったな」
そう言うと、リゼがまたにやりと笑った。とても不快な笑い方だ。悪意を含んだ、嫌な笑い。
「いんえ。侮っていないっスよ。ただちょっとアイさんの力が予想外だったっスけど。やっぱ2兎を得るのは難しいってことっスかねー。せっかく色々と準備したのに、きびしー!」
「お前、何を言っているんだ?」
「じゃん! ここで問題っス! レオンさん、ユーリさん、レムさん、マカロンさん、ルナさん、アイさんの6人の中で~、今、いないのは誰でしょう!?」
「……なんだと!?」
「くく、あはははははっ!」
レムが――レムがいない。
ちくしょう……狙いはレムだったのか! 俺はリゼの胸倉を掴んで引き寄せた。
「お前、レムをどこにやった!?」
「く、ククク。答エルワケガナイダロウ、レオン」
リゼの声色が変わる。
「……誰だ。リゼを操っているお前は誰なんだ」
「サテ、誰デショウ。クク、クククク……ぐぅっ」
リゼが白目を剝いて、ガクリとうなだれた。
誰だかはわからないが、あの感じだとアイかルナのどちらかも狙っていたようだ。
ユーリをさらったのは、レムを冷静でいられなくするためだったのか。そして罠に誘い込み、レムともう1人をさらうという算段だったというわけか。やってくれる。
「マカロン。レムを追えるか」
『駄目だな。何も感じ取れねぇ。この魔法陣が解析できれば、何か手掛かりが――』
そこで遺跡が揺れ始めた。魔法陣が光り輝いている。
『かーっ! 誰かはわからねーけど、用意周到なヤツだぜ。痕跡一つ残すつもりはないらしい。ムカツク!!』
揺れが激しさを増す。遺跡が崩れていく。天井からいくつもの瓦礫が落ちてきた。
俺はユーリを壁からひっぺがし、リゼを抱えた。
まずはとにかく、ここから逃げなければ。俺たちは走り、遺跡から脱出した。
俺たちを嘲笑うかのように、ぐわははと音を立てて崩れていく遺跡を呆然と眺める。
俺は拳を強く、強く握りしめた。
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