第5話 いきなり誘拐されちゃった

「――というわけなんだよネ!」

「手の込んだ作り話だったな。さ、覚悟を決めな」

 話が終わったようなので、俺は再びマカロンを振り上げた。

「作り話じゃないってバ!」

「ご主人様をいじめたら許しません」

「レオンちゃん、やーめーて!」

 レムとルナが俺の前に立ちふさがった。こうなるとユーリを斬り伏せることはできない。いや、もちろん最初から斬るつもりはないんだけどよ。仲間を本気で斬ると思っているのか、こいつらは。俺がやるとそこまで冗談にならねぇもんかね。

 

 先ほど、マカロンを振り上げておろそうとした時は(もちろん寸止めするつもりだった)、腕が動かなかった。マカロンが俺の腕を止めたのである。

 こいつはこの女の子がレムだということに気付いていたらしい。もっと早くに言えってんだ、まったく。というか、こいつまで俺がユーリを斬ると思っていることが腹立たしい。

 俺のことをちゃんと理解してくれているのはアイだけだと思ったら、動きを止めるような魔法を放とうとしていた。ひどい。

 俺はがっくりとしてマカロンを引いた。


「ったく、本気でやるわけねぇだろ」

「そ、そうだよネ! ははっ、ふー……よかった」

 ユーリは心底ほっとした表情で息をついた。

 それにしても、あのバカでかいゴーレムがこんな小さな女の子になぁ。謎だらけだったゴーレムに、さらなる謎が隠されていたとは。もはや俺たちの理解の及ばない次元の話だ。

「でも……よかったな、ユーリ。かわいい娘ができて」

「娘じゃないです!」

「あいたっ!」

 レムにがぶりと手の指を噛まれた。これは普通に痛い。

「レム、噛むのはやめなさイ」

「じゃあ、殴ります」

 ドゴンと俺の身体がちょっと浮いた。なかなかいいパンチだ。成長が楽しみだな。


「ははは。それくらいにしておかないとおしりぺんぺんだぞ」

 俺はびゅんびゅんと素振りした。レムがまるで汚いものを見たかのような目を俺に向ける。

「情報検索。思い出しました。レオン、あなたは女の子のおしりを叩いて快楽を覚える変態です」

 そういやこいつも俺がタマをおしおきした時の一部始終見てたっけなぁ。快楽覚えてねぇし。

「レオンちゃん、変態です?」

『ああ、こいつは変態だ。間違いない』

「変態ですネ」

「わたしは……変態のレオンさんも好きです」

 はははは。こやつら。

「よし、わかった! アイ以外、みんなおしり叩きの刑に処す」

 おしり……おしりを破壊してやる! 破壊しつくしてやる!

「まずい! 逃げるヨ!」

「きゃー!」

『くそっ! オレ様に逃げ場がねー! あ、そもそもオレ様おしりないから大丈夫だわ』

 ルナとユーリとレムが逃げていく。さて、どいつからしばいてくれようか。

 

 と、ここで俺は瞬時に気づいた。



 ――1人、増えてる。俺は突如として現れたそいつに掴みかかる。

 かわされた。速い。

 そいつは黒いフードマントに身を包んでいた。顔は見えない。

「アイ、頼む!」

「はいっ!」

 アイの魔法が飛ぶ。放たれた光球は、しかし、そいつの前で消滅する。

「えっ? えっ?」

 俺とアイ(とマカロン)以外は、何が起きているのか把握できていない。

 黒いフードマントがユーリの前で広がった。


「……あっ!?」

 一瞬、そいつの顔が見えて、アイは声をあげた。俺たちが知った顔だった。なんでこいつがここに。

 マントが戻ると、ユーリの姿は消えていた。

 そいつはにやっと笑うと、風のように東の方角へと走り去っていった。


「……マスター!!」

 レムが叫んだ。

 

 ユーリが……さらわれた、のか?

 なんであいつがユーリをさらう? さっぱりわからない。

 俺たちはしばらく唖然として、動けずにいるのであった。

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