第2話 ユーリとレム(前編)

 今日も収穫なし。遺跡に戻った僕は、ボロボロに壊れたレムを見上げた。

 最後の戦いで、レムは魔王の生み出した黒いゴーレムと相打ちになり、倒れた。自己修復機能を失い、光力増幅装置も壊れ、日に日にその活動時間は短くなっている。


【オカエリナサイ、マスター。命令ヲ】

「レム。寝てていいんだヨ。休んでいなさイ」

【ハイ、マスター】

 再びレムは眠りにつく。少しでも活動を抑えないと、いつ完全に機能を停止してしまうかわからない。

 王国の錬金術師たちや魔導師たちの知識をもってしても、魔王の城にあった古代の文献をかたっぱしから調べてみても、レムを造り上げた技術の謎を解き明かすカギは得られなかった。レムを直してやる術が見つからず、僕は焦っていた。

 せめてレムの壊れた部品の代わりになるものが作れればいいのだけれど、それも難しい。王国に保管されている別のゴーレムに、レムの“核”を移すことができればと考えたけれど、取り出す方法がわからない。何か方法は……良い方法はないのだろうか。


【マスター】

「レム。起きていたのかイ?」

【ナゼ、ワタシヲ直ソウト考エルノデスカ? ワタシノ役割ハ、マスターヲ守護スルコト。ソシテコノ“家”ヲ守護スルコト。ソノ役割ヲ担ウ、単ナル道具ニスギマセン】

「前にも言ったけれど、僕はキミのことを単なる道具だなんて思っていないヨ。キミは僕の大切な家族なんだヨ。これも前に言ったけれど、レムは僕のお嫁サンだからね! ずっと一緒にいるって誓ったヨ! だから、僕はキミを助けたいんだヨ。これからも一緒にいるためにネ」

【家族:婚姻によって成立した夫婦を中核にしてその近親の血縁者が住居と家計をともにし,人格的結合と感情的融合のもとに生活している小集団】

【嫁:結婚して夫の家族の一員となった女性】

【ワタシ≠家族・嫁。一致、該当シマセン。理解不能】

【ワカリマセンガ、マスターの言葉ハ嬉シイ、ト感ジマス】

 長い旅の中で、レムの中に少しの変化があった。自分で“考える”ようになったのだ。レムには人間の感情というものがない。しかし、数々の経験を経て、人間という生き物に対する興味を抱いたようだった。疑問に思うことは質問するようになり、自ら皆を守るために行動するようになった。少しずつ、少しずつだけど、僕たち人間を理解していくようになったんだ。

 僕がレムのことをお嫁さんと呼ぶのに、そんなに深い理由はなかった。ただ、こんなにも僕に従順な女性がお嫁さんだったらいいなーという想いから、いつしかそう呼ぶようになっていただけだ。そんな僕を仲間たちは生暖かい目で見ていたけれどね。

 それに、マスターである僕が一番レムと接する機会が多かった。レムはとても大きいし目立つから、町には入れない。だからいつも僕はレムと野宿をしていた。レムの中には一部開くところがあって、そこが僕の寝床となっていた。意外と心地いいんだよ、あそこは。

 幾度の夜を越える中で、レムにたくさんの話しをした。一方的に僕が話しかけるばかりだったけれど。


 僕には家族がいなかった。いや、存在はしているんだけどね。僕は家族に捨てられ、孤児になってしまった。多分、この腕輪のせいだと思う。これは誰にも外すことができないんだ。次の“後継者”が生まれるまではね。父は生まれた僕に腕輪を引き継いだ後、腕輪ごと僕を捨てることで、その因果を断ち切ろうとしたんだろうね。

 拾ってくれた孤児院での僕の扱いは、そりゃあひどいものだった。命の危険を感じた僕は孤児院から逃げ出した。逃げて辿り着いた町で、僕は考古学者のおじさんに拾われた。優しいおじさんで、僕に色々と勉強を教えてくれたんだ。遺跡にも連れて行ってくれて……それで僕はおじさんみたいな考古学者になって、冒険したいと思うようになったんだ。

 血は繋がっていなくても、心と心が繋がれば家族になれる。おじさんは病気で死んでしまったけれど、僕にとってはかけがえのない家族だった。

 僕はレムに色々なことを話し教える中で、おじさんの姿を思い出していた。

 レムにも“心”がある。心と心が繋がれば、僕とレムも家族になれるんじゃないだろうか。最初は単なる実験みたいな気分だったけれど、不思議なものだね。長い間一緒にいると、まるで本当の家族のように感じだった。

 だから、レムを失えば僕は悲しい。助けたい。それがすべてだった。



「へへーっ! 本当にやがったぜ、ゴーレムが!」

「解体するのにかなりの手間がかかりそうだなこりゃあ!」

「まぁ、その分の見返りは期待できるぜ」


「なんだイ、キミたちは……」

 遺跡の中にぞろぞろとガラの悪い連中が入ってきた。1、2、3……15人か。

「こいつぁ、勇者の仲間ユーリだな。どうする?」

「こいつは大した力がねえって聞くぜ。ゴーレムを操れるらしいが、頼みのゴーレムがあれじゃ、怖くもなんともねーな」

 ゴロツキどもがにじり寄ってくる。


「なめられたモンだネ……!」

 過酷な旅で鍛え上げられた、僕の力を見せてやる。僕は意気込み、構えた。

 そして――。

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