第1話 犯罪はダメ! ゼッタイ!

「目標補足。排除開始」


 前方で何かがピカッと光った。

 俺の前の地面が爆発して砕け散った。何か、前にもこんなことがあったなこれ。


「レオンさん、大丈夫ですか!?」

 アイが俺の前に立って、魔法で防壁を張る。

「大丈夫だ。もしかして今のは……ゴーレムの?」

「はい、そのようですが、姿が見えません」

 まさかまた、魔石か何かの影響で暴走しているって流れか。


「レオンちゃん、誰かいますです!」

 ルナが先ほど光ったあたりを指さす。そこには、小さな女の子の姿があった。女の子は小さな声で何かぶつぶつと言った後、走って行ってしまった。

「まずいな。もしあのゴーレムが暴走してたりしたら、あの子が危ない」

「追いかけましょう!」

「ああ!」


『あのー、レオンよ』

「うるさい! 後にしろ、マカロン」

『いや、今のは――』

「後で聞いてやるから、黙ってろ。いくぞ!」

 俺たちは走り出した。女の子が走って行った方角へと向かうも、なかなか追いつけない。速いな。あっという間に見えなくなってしまった。


「レオンちゃん、アイちゃんー。あの子が走っていく先におうちがあるですー」

 何も言っていないのに、ルナは空から女の子が向かう先を確認してくれていた。何気に仕事ができるやつなのかもしれない。少なくともマカロンよりは。

 それにしてもこんなところに家があるとはな。

「お家に帰ったなら、安心ですね」

「いや、さっきのゴーレムの攻撃が気になる。その家の周辺の様子を確認しに行った方がいいかもしれない」

「そうですね……わかりました! いきましょう」

 俺たちは女の子の家と思われる場所へと急いだ。


 それは赤い屋根の、小さな小屋だった。周辺に荒れた様子はない。

「大丈夫そうだな」

「よかったですぅ」

 ゴーレムは暴走しているわけじゃないのか? それとも別の何かが俺たちを攻撃してきたというのだろうか。しかし、あの光はゴーレムが放ったものに感じられたが……。

 正体はわからない以上、警戒を怠らないようにしなきゃな。

 とその時、小屋のドアが開いた。


「そいじゃ、ちょっと行って見てくるネ!」

 家の中の誰かに声をかけて、ひょこっと外に出てきたのは、なんと――俺たちのよく知った男だった。

「あー! ホントにレオンサンだ! いやぁー、なつかしー! また会えて嬉しいヨ!」

 ボサボサ髪の無精ひげは相変わらずのようだ。そのひょろっとした男、ユーリは俺に飛びついてきた。

「お久しぶりです、ユーリさん」

「その声は……アイチャン! え? どうしたの、その体!? 青くて、透き通って、スライムみたいにぷるぷるだヨ!」

「ちょっと色々ありまして」

「そっか、そっか。大変だったみたいだネ!」

 まぁ、俺たちの色々は本当に色々だから、詳細はわからなくとも伝わるもんだ。


「おぉぉ、そっちの小人サンは、妖精だネ! 僕はユーリ、はじめまして!」

「はじめましてです! わたくしはルナです」

「ルナチャンだネ! かわいいなー! レムのお友達サンになってもらいたいネ!」

 レム。

 そうだ。それはあのゴーレムの名前だ。

 名前がないと不便だから何か考えてくれとユーリに言われて、俺が名付けた。

 ああ。ゴー“レム”だからレムだ。

 いやな。めんどうだったからつい適当に応えたら、ユーリが気に入ってしまってな。

「ん? ということはやっぱり……さっき俺たちを攻撃してきたのはレムだったのか」

「あれから5年も会っていないからネ! キミたちの情報が更新されずに古いままだから、ちゃんと認識できなかったみたいだヨ。以前と比べると、そこらへんの機能は低下しているみたいだからネ」

「ふぅん……まぁ、あの戦いでかなりぶっ壊れてたからな。で、そのレムはどこにいるんだ?」

「フフフ。見たいかイ? いやー、驚くだろうなー! 今のレムを見たら、キミたちきっと驚くヨ! そうそう! あれから色々とあって、僕も大変だったんだヨ!」

「いいから早く呼べ」

「アウチッ!」

 俺はユーリのふともものあたりを軽く蹴った。かなり軽く蹴ったのに、それでもかなり痛そうだ。涙目になっている。

 貧弱さも変わらねぇな。よくあの旅の過酷さを乗り越えたもんだ。

「いてててー、馬鹿ヂカラは健在だネ! それじゃ、呼ぶヨ! おーい、レム! 出ておいで!」

 ユーリがレムを呼ぶ。

 しーんという静寂。あれれとユーリが首を傾げる。

「レム? 大丈夫だヨ! レオンサンたちだヨ!」

 ユーリが小屋に向かって声をかける。するとぴょこっと、栗色の髪を短いツインテールでまとめた……恐らく先ほど走り去っていった女の子が現れた。年齢は7、8歳といったところだろうか。


「改めて紹介しよう! 僕のお嫁サンの、レムだヨ!」

 女の子はペコリと頭を下げた。


 ……。


 俺は無言でマカロンを手に取る。

「ちょちょちょ、何その顔! 怖いヨ」

「お前……そんな小さな女の子を……とうとう人の道を踏み外したか」

「違う違うちがーウ! この子、レム! ネッ、そうだよネ、レム!」

「はい。私はレムです。ご主人様」


 ……。


 俺は無言でユーリとの距離を詰めた。

「お前……そんな小さな女の子に、ご主人様なんて呼ばせて……恥ずかしくないのか」

「だーかーらー! レムなんだってバ! アイチャン! レオンサンを止めテ!!」

「……ユーリさん。残念です」

「ちょっ、助けテ、レム!」

「はい、ご主人様。でも私、お腹空きました。力が出ません」

「エー!!!!」



 さらば、犯罪者ユーリ。

 お前のことは時々思い出してやる。俺はマカロンを振りかざした。


「いやーーーーっ!」

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