第七章 ゴー! レム!!

ゴーレム

【目標補足。排除開始】

 石の巨人の目が光ったかと思うと、俺の前の床が爆発して砕け散った。

 なんだ、今のは!? 攻撃がまったく見えなかったぞ。


『ありゃあ、レーザーだな。光を増幅して放射してやがる。光速だから目視できねーぞ』

 魔剣こいつが何を言っているのかよくわからないが、とにかくやばい感じだ。


【誤差修正。目標補足。対象ヲ再攻撃】

 目が光った瞬間、俺は後方に飛び退いた。俺がいた床が爆発し、今度はどろりと赤く溶けている。とんでもない熱量だ。


『あいつの前に立つと危ないぜ。横だ。横の動きで撹乱しな』

「どうした、やけに協力的じゃねぇか」

『解放されて間もねぇってのに、ここでオマエが死んだら、またこんな辛気くせー遺跡に取り残されりまうだろ。次の持ち手がいつ現れるかわかりゃしねぇ』

 かわいげのないやつだな。

 それにしてもついていない。みんなとはぐれた上に、落とし穴に落ちるとは。しかもその先に、こんな得体の知れない石の巨人がいるなんてな。


「一体なんなんだこいつは。モンスターなのか」

『こいつは”ゴーレム”だな』

「ゴーレム?」

『魔導により仮初の命を吹き込まれた、自立式の泥人形だ。あいつは鉱石やら金属を組み合わせて作られたみてーだが。それにかなり複雑な術式を組む混んでいるようだ。かなり高度な技術を用いているな。魔導と錬金術の結晶だな。この遺跡の守護者の役割をもっているようだ。見たところ、造られてから相当な年月が経っているのにあれだけ機能するとは驚きだ』

「……よくわからんが、倒せるのか」

『今のオマエじゃ厳しいな。あのカイルとかアイとかいうやつの魔法があれば……いや、もしかしたら魔法反射装置を備えているかもしれねー。まともにやりあったらあぶねーな』

 逃げの一手しかないってわけか。とは言っても、広間を見渡してみても通路はない。隠し通路でもあるのだろうか。こいつとやり合いながらそれを探す余裕はない。


「“あれ”をやるしかないか」

 俺は魔剣を握りしめる。

『“あれ”はやめておけ。黒騎士と戦った時は奇跡的にうまくいったが、次は命の保障はねぇ。代わりに別の技でいく。技というか、強化術だな。まぁ、オマエのあほみたいな筋力なら“4割”程度いけるかな……』

「強化術? 4割?」

『オマエの脳に、オレ様の魔力を流して、力が寝ている部屋の“扉”をこじあけるのさ。人間の脳ってやつは普段、エネルギー効率を考慮して動いている。そうしなきゃ、すぐにエネルギーがカラっぽになっちまうんだ。俺の魔力でそいつを補い、エネルギー効率をシカトする。それで強制的に脳の活動領域を増やし、オマエの中で寝ている恐ろしい力を開放してやるのさ』

 えねるぎー? こいつの話は本当に訳が分からない。なんだかイライラしてきた。


「とにかく、それで強くなるんだな」

『ああ。だが気を付けろよ。オマエの中にどれくらいの力が寝てるのかわからねー。4割ほどの解放でも、肉体が負荷に耐えられねーかもしれないからな。まずは慣らしで2割、いってみるか』

「い、いてぇ!」

 頭の中がびりびりする。目がちかちかする。その次の瞬間、身体中に力が満ち溢れるのがわかった。腕がうずうずする。まるで力が解き放たれるのを待っているようだった。


【目標ノ身体能力向上確認。情報更新】

 ゴーレムが何かを言ったその直後、俺は横に跳んだ。思いもよらぬ速度に、感覚がついていかない。身体が軽すぎて浮いているみたいだ。

【目標補足】

 ゴーレムの頭だけがこちらを向く。こうなりゃ、体当たりが一番手っ取り早いな。

「おりゃあっ!」

 俺は全力で前方に駆け出した。足を踏み出すたびに床が抉れてうまく走れない。

【排除――】

 俺とゴーレムが衝突する。ゴーレムの巨体が浮き、壁にぶつかってめり込んだ。


『嘘だろ。なんだこの段違いの力は! 2割解放でこれかよ……! これならゴーレムとガチで殴り合っても勝てるぞ。オマエ、本当に人間か!?』

 魔剣が驚きの声で言う。まぁ、確かに……時々自分のことが本当に人間なのかわからなくなることがある。普通じゃない力を持つ俺はいつだって、周りから拒絶されてきた。隔離されてきた。こんな力なんていらないって何度思ったことか。

 だが、俺の力をものともしないカイルと出会い、こうして旅に出て、俺のこの力が役立つことがわかった。それが純粋に嬉しかった。ようやく、俺の生きる道がわかったんだ。だから俺はこの力を存分に振るうんだ。たとえ他の連中にバケモノ扱いされても構いはしない。俺のことを理解してくれる仲間がいれば、俺はそれでいい。


 ゴーレムが壁からよろよろと出てくる。

【右腕ノ損傷確認。修復実行? 全快マデ60秒】

【否。目標ノ破壊優先。リミッター解除。実行マデ10秒】

 ゴーレムの石の体がどんどん赤くなっていく。なんかやばい雰囲気だ。


『けっ。本気を出すってよ。こうなりゃこっちも4割開放で――』

 と、その時。

 天井の方から誰かが叫ぶような声がした。声はどんどん近づいてくるようだった。


「うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 “あの男”が落ちてくる。ちょうど、ゴーレムの真上だった。

 男がゴーレムに衝突した。しかし、男が背負った大きなものが緩衝材となり、衝撃を殺したようだ。男はぼよよんと床に転がった。


「いててて。はぁー、死ぬかと思ったヨ! 想いの他深かったネ! びっくりだネ! あ、レオンサン、無事で何より」

「あんた……まさかわざとあの落とし穴に落ちたのか。無茶するな」

「いやー。考古学者たるもの、未知の道があれば恐れず飛び込んでみるものなのだヨ。新たな発見がそこにあるかもだからネ! 未知の道……みちのみちだって、ぷぷー!」

「……?」

 髪の毛がぼさぼさで無精ひげをはやした、ばかでかいリュックサックを背負ったその男は、考古学者のユーリだ。右手首につけた白銀の腕輪が輝くのがちらりと見えた。

 考古学者。遺跡や遺構などの人類またはモンスターたちが残した痕跡を探し、発掘し、過去の活動と変化を研究する学者……なんだとさ。

 ユーリは遺跡だらけのこの大陸にやってきて、もう10年が経つらしい。恐ろしいトラップや魔獣などが存在する遺跡の調査が進まずに困っていたところ、たまたま俺たちと出会い、同行を依頼してきたってわけだ。

 しかし、参ったな。どうせ落ちてくるならカイルかアイがよかったのに。ユーリは色々なアイテムをリュックに詰め込んでいるが、あのゴーレムに通用しそうな代物はないだろう。


【新タナ侵入者発見。排除開始】

【否。目標確認。分析】

【――】

 ゴーレムの動きが、止まった。じっと、ユーリの方を向いたままだ。


「うおぉぉっ!? 石の巨人!? しゃべった!? なんだこれは! すごい発見だぞこれは!」

 ゴーレムの存在にやっと気づいたユーリが興奮した。近づこうとするので、俺は制止した。

「あいつはこの遺跡の守護者らしい。俺たちを敵だと思って、攻撃してくる。下がっていろ」

「敵じゃないヨー、怖くないヨー」

 るーるるるーとか何とか言って、ゴーレムに近づいていこうとするユーリ。動物じゃねぇんだからよ、まったく。


【――管理者ノ腕輪確認】

【前主人マスターノ遺伝子情報照合。類似】

【情報更新。個体名:ユーリ、ヲ新タナ主人マスタートシテ認証】


「なんだ? 何が起こってるんだ」

「さぁー? でも大丈夫そうだヨ、近づいても」

 といって、ユーリが近づいていく。ゴーレムは攻撃してこない。


【マスター、命令ヲ。個体名:レオン、ヲ排除シマスカ?】

「えぇー!? 駄目だヨ! 彼は僕の仲間! ところでマスターって何?」

「いや、俺に聞かれても」



 ユーリのつけている腕輪は、代々受け継いできたものらしい。そしてそれはこの遺跡とゴーレムの“管理者”の証だった……ということは後のユーリの調査でわかった。

 ゴーレムはユーリの命令には忠実だが、俺たちの言うことは聞かなかった。とにもかくにも、ユーリは心強い相棒を得たわけで、これで俺たちの助けは必要としなくなった。

 それなのに、どういうわけかユーリとゴーレムは俺たちの旅についてくることになった。というか勝手についてきたのだが、結果として頼もしい仲間となるのであった。

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