かわいそうな怪物のおはなし
とある日の夜のこと。またしても寝つけないルナは、やはりそこらへんに放置されている魔剣マカロンを叩き起こした。
「ねーねー、ねーねー、マカロン! この前の約束です! 何かお話ししてくださいです!」
『ちっ。覚えてやがったのか』
こうなると、この妖精はしつこい。対応を誤れば、レオンにここぞとばかりに何をされるかわかったものではない。厄介の極みである。
そうだ。とびっきり悲しい話しをしてやろう。そうすればもう2度と、話しをしてくれなんてせがまれることはなくなるだろう。マカロンは思った。
『しょうがねぇなぁ。よぉく聞いていろよ。ええと、あれは100年以上前に聞いた話だったかな……題目は確か、“かわいそうな怪物のおはなし”だったような』
「わくわく」
そしてマカロンは、ゆっくりとした口調で話し始めた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
かわいそうな
むかーしむかし、あるところにおそろしくみにくいすがたをした怪物がいました。みんな、怪物のすがたをみるとにげていきました。
どうしてわたしはこんなにみにくいのだろう。怪物はなきました。
どうせきらわれるなら、もっときらわれてやろうと怪物はおもいました。そして怪物は、みちをいく人のまえにあらわれてはおどろかし、こわがらせてわらうのでした。かなしくなきながら、わらうのでした。
ある雨の日。
みちをいくひとりのわかものがいました。
怪物はそのわかものをおどろかせようと、とびだしました。しかし、わかものはおどろきませんでした。
「あなたはわたしがこわくないの?」
「わたしはめがみえないのです。あなたはとてもやさしい声をしていますね。こんなにやさしい声をしたひとが、こわいはずありません」
怪物はうれしくなりました。そのわかものは怪物のともだちになりました。
わかものと怪物はまいにちいろいろなことをおはなししたり、あそんだりしました。
わかものは怪物のことが好きになりました。わかものは、怪物のことをとてもうつくしい
怪物もそのわかものを好きになりました。
「ねぇ。もしわたしがみにくい怪物でも好きでいてくれる?」
「もちろん。ぼくはきみがどんなすがたでも好きでいるよ」
このしあわせがいつまでもつづきますように。怪物は神さまにいのりました。
しかし。
ある日、わかものはこうねつでたおれてしまいました。すぐに、おいしゃさんにみてもらわなければいのちがあぶないと怪物はおもいました。
怪物はまちのおいしゃさんの家までわかものをはこびました。
怪物はドアをたたきいいます。
「たすけてください。おねがいします。たすけてください」
おいしゃさんがドアをあけるころには、怪物はすがたをかくしていました。
どうかあのわかものがたすかりますように。怪物はまた、神さまにいのりました。
おいしゃさんのてあてをうけたわかものは、とても元気になりました。そのおいしゃさんはわかものの目の病気もなおすことができました。目が見えるようになったわかものは、ないてよろこびました。
そうだ。あのひとのところにいかなきゃ。うつくしいあの声をした、あのひとのところへ。
わかものはいそいで怪物のところへとむかいました。
「おーい、かえってきたよ。どこにいるんだい」
わかものがよぶ声をきき、怪物がすがたをあらわします。わかものの目がなおったことなど、怪物は知りません。
「よかった。すっかり元気になったのね」
ぬっとあらわれた怪物をみて、わかものはぜっきょうしました。
「うわーっ! 怪物だ! くるな、こっちにくるな!」
わかものはこしをぬかしてしまいました。
怪物はなきました。ないて、ないて、そしておこりました。どんなすがたでも好きでいてくれるっていったのに、あれはうそだったのかとおこりました。
わかものは、怪物のいっていることがたんなるたとえばなしだとおもっていたのです。
怪物はにげるわかものをつかまえて、たべてしまいました。それでもいかりはおさまりません。怪物はまちにいき、みんなをつかまえてたべてしまいました。そしてだれもいなくなってしまいました。
だれもいなくなったまちで、怪物はひとり、なきつづけるのでしたとさ。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
『……でしたとさ』
話しを聞き終えたルナは、目を丸くしている。
マカロンはしてやったりと思った。この救いようのない話しを聞けば、もう懲り懲りだろう。マカロンは内心笑った。
ぽろり。
ルナの目から、大粒の涙が流れた。
――や ば い!
やりすぎた! ここで大泣きされたらレオンに感づかれて、痛い目にあうこと間違いなし。軌道修正しなければ!
『あー、ごほん! げふ、げふん! ごほん! ……そのようすを、天から神さまがみていました。なきつづける怪物をかわいそうにおもった神さまは、ほんのすこーしだけ、じかんをもどしてあげました。わかものがねつでたおれたところまでじかんがもどりました。怪物はなくのをやめました。怪物はわかものをねかせると、町のおいしゃさんのところまでいきました。おいしゃさんはみにくい怪物におどろきましたが、いっしょうけんめいあたまをさげて、くすりをくださいとおねがいする怪物にこころをうたれ、びょうきによくきくくすりをあげました。怪物はそれをもちかえり、わかものにのませました。わかものはげんきをとりもどしました。わかものは目がみえないままでしたが、しあわせでした。怪物もまたしあわせでした。そしてふたりは、死ぬまでずっといっしょにいることをちかうのでした。おしまい』
ルナの涙が止まる。
最後はもはや即興の作り話になってしまったが、どうだ。駄目か。駄目なのか。
マカロンはハラハラした。
しばらく目を丸くしていたルナだったが、やがて笑顔になった。そして再び目から涙が溢れだした。
「よがっだですぅ、怪物さん、よがっだですねぇぇぇぇぇぇぇ」
『うをっ! 鼻水きたねー! 結局泣くのかよ!』
「なんだ騒がしい。あ、てめぇマカロン! またルナを泣かせたな!!」
『オレ様そんなにこいつ泣かせたことねーよ!?』
「うるさいだまれ! 聖なる石を括り付けて、近くの泉に沈めてやる! こい!」
『うええぇぇぇ!?』
マカロンはレオンに掴まれた。部屋から出ていく際、ルナは泣きながら、そして笑いながらマカロンに言った。
「またお話し、聞かせてくださいですね! マカロン」
『二度とごめんだい!』
水の中。沈みながらふと、マカロンは何かを思い出しかける。
はて、昔……ああやって誰かに話しを聞かせたことがあったような、ないような。いや、気のせいだろう。だってオレ様は剣。ずっと剣なのだ。いつから存在していたのか、もう思い出すことはできないが。
しかし、なんだか懐かしい。そしてなぜか、心地よい。
そんな気分に浸りながら、マカロンは泉の底へと沈んでいった。
『まぁ、レオンと一定の距離が離れたらすぐに戻るんだけどな!』
「うぜぇ!」
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