剣と鞘

※ @yamisaba 様から頂いたコメントを基になんとなくつくったお話しです。


 ――さや

 それは刃物の身の部分を包む覆いのことである。刃先を鋭利に保つために保護するとともに、刃が周りを傷つけないように隔離し、保管や携行中の安全を確保する機能を持つものだ。材質は、革、木、獣の角、布、金属などがある。これらは単一で用いられるより、組み合わせて用いられることが多い――




 時はレオンたちがセフィルの大神殿に最初に行った頃に遡る。


「おい、剣! 魔剣! できたぞ!」

『ああん? なんだよレオン。何ができたってんだよ』

「お前の相方だ!」

『ああん?』


 レオンの手には“鞘”が握られている。

 そういやぁ、ガンテツのじいさんに何か作ってもらっているっていってたなと、魔剣は思い出す。

 魔剣はぞわっとした。あの鞘からは禍々しい気配が感じられた。


『あらぁん。イイお・と・こ

 鞘から野太い男の声が発せられる。おっさんか。おっさんなのか。

『な、な、なんだこいつ。喋るぞ!?』

「お前も喋るじゃねぇか」

『いや、そうなんだけどよ』

「なんでもじいさん、けっこう偉い精霊サマが封印されていた素材だってことに気付かないまま加工しちまったらしいぜ。目覚めたはいいが、鞘から抜け出せなくて困っているらしいぜ、そいつ」

『よろしくね、魔剣ちゃん』

『ちょ、まてまてまて。オレ様、こいつの中に入るの!? やだよ、なんかやだよ』

「あ? 剣を剥き出しのまま持ち歩くとあぶねぇだろうが。おとなしく収まれ」

 レオンが剣を掴んだ。剣がぶるぶると振動する。

『やめろ! やめてくれ!』

『魔剣ちゃん、怖がらなくてもいいのよ。さぁ、アタシの中に入って♡』

『やだやだやだやだやだ!!』

 剣が鞘に、ゆっくりと飲み込まれてゆく。

『あぁ……大きくてかたいわ。もっとアタシの奥深くにきてちょうだい』

『いや……いやーーーーーーーーーーー!!』




『――はっ』

 マカロンは悪夢から覚める。

 心臓はないが、動悸が激しい……ような気がする。

 汗もかかないが、何かひんやりと冷たいものを感じる。

 耳元で野太い声で囁かれた愛の言葉が、脳裏によみがえる。耳も脳もないが。

 あの後。なんとかうまいことヤツを深い谷に落とすことに成功し、別れることができたが……本当に地獄のような日々だった。あんな想いは二度とごめんである。


「あ! しまった!」

 急にレオンが大きな声をあげた。

「ガンテツじいさんにマカロンの鞘を作ってもらうの、忘れた!!」

 ぞわり。

「旅の初めに持ってた鞘もすぐになくなってたし……なんでいつも鞘だけなくなるんだ。仕方ない。アイに空間転移してもらって、お願いしてくるか。サラマンダーの炎酒も手に入れたことだし」

『ちょい待て、ちょい待て! オレ様は狭いところに収まっている器じゃねー! 鞘なんかに収まっていられるかよ!』

「ああ? わけわかんねーこと言うなよ」

 くそっ。なんで急に鞘のことを思い出すんだ。まずい。まずいぞ。何とかしなければ。マカロンは焦った。


 その時だった。前方でピカッと何かが光ったのは。

 それは――。



 

 ――本編七章に続く!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る