番外編2
エリーゼさんの挑戦!!(前編)
とある日の夜のこと。寝つけない妖精ルナは、そこらへんに転がっている魔剣マカロンに話しかけた。
「ねーねー、ねーねー、マカロン! 勇者さんってどんな人なんですか?」
『せっかく寝てたのにうるせぇなぁもう』
「目がないから寝てるかどうかわからないですよぅ」
『それはそうだけどよ……勇者カイルのことなら、レオンに訊けよ』
「アイちゃんといちゃいちゃしてるみたいだから邪魔しちゃ悪いかなって」
『あーあぁー……まぁ、それじゃ仕方ねぇな。なら明日訊くこったな』
普段わちゃわちゃしているのに、こういうところの空気だけは読むんだよなぁこの妖精は、とマカロンは不思議に思う。
「いやですぅ! 全然ねむれないんで、今、お話ししてくださいよぅ」
『オマエの都合なんざ知ったことかよ』
「レオンちゃんにマカロンがいぢめたって言いますよぅ」
『事実かどうか関係なくひどい目にあうからやめて! しゃーねーなー……したらちょっと“視に”行くか』
ルナの頭の上に?マークがたくさん飛んだ。
『魔力もちょいと戻ってきたし、暇つぶしにゃちょうどいいかもな。ちょいと目をつむってな』
ルナは言われた通りに、目をつむる。ふわっと身体が浮いたようだった。飛んでいる時とはまた別の浮遊感である。意識が遠のき、身体が流されていくようだった。
『着いたぜ』
ルナはマカロンの声で意識を取り戻した。目を開けると、そこは見知らぬ土地だった。
『こっちはまだ昼過ぎくらいみたいだなー』
「こ、ここはどこですか!? いったい何が起こったですか!?」
『ここは勇者カイルとその嫁さんエリーゼの愛の巣だ。直接会うとたぶんエリーゼに消されるから、意識だけここに飛ばしてみた。これなら恐らく気づかれないと思うが……』
とは言うマカロンであったが、不安はあった。何といってもエリーゼは世界最強の存在。ドラゴンの頂点だ。もし気づかれたら、すぐに意識を元の場所へと戻さなければならない。マカロンは念のため、備えておくことにした。
「はぁ~、意識だけを飛ばすなんて、できるですか?」
『オレ様はなんでもできるのさ。ほれ、あそこにいるのがカイルだ。どこからか帰ってきたのかね……なんか袋もって家の中に入っていくぞ』
「行ってみるです! って、どうやって動けばいいですかこれ」
『注意を“そこ”に向けてみればいいのさ』
「む~?」
『わかった。オレ様が案内する』
パッと景色が変わる。
「ただいま、エリーゼ!」
「お帰りなさい、カイル! 寂しかった!」
エリーゼがカイルに抱きつく。
「おおげさだなぁ。1時間も経ってないはずなんだけど」
「わたしにとっては1万年にも感じられたわ……もう、ひと時も離れていたくない」
「……エリーゼ!」
2人はぎゅーっと抱きしめ合う。
「わお。らぶらぶですね」
『らぶらぶだな。目に毒だ。しかし、どうやら気づかれていないようだな。よかった』
「へー、あれが勇者カイルさんですかー。いけめんさんですね! 奥さんもとっても美人さんですぅ!」
美男美女。しかしこれはとてつもなく恐ろしい夫婦である。魔王を倒した勇者と、世界最強の生物の組み合わせ。世界を幾度も滅亡させられるような力がここに存在している。マカロンはぞっとした。
「カイルさん、とても優しそうな人ですねー」
『以前は他人に興味ねぇって面してたけどなー。心を開いているのもレオンだけみたいな感じで。旅をしていくうちに、だんだんと人間らしくなっていったっけな』
「へー、そうなんですねぇ。あ、そうだ! カイルさんて、エリーゼさんの前に付き合っていた人っとかいるですか? かなりモテそうですけどー」
『オマエ、そういう話好きなんか……。うーん、あいつぁ付き合ってたヤツとかいねぇなー。すげぇべっぴんさんに言い寄られても顔色一つ変えやしねぇんだ、あいつ。男色家じゃねぇかって噂も出たほどだ。色んな男にも言い寄られてたっけ』
「うへぇですぅ」
不意にエリーゼが振り返った。マカロンとルナはびくりと、ここにはない身を震わせた。
「どうかした? エリーゼ」
「ううん。気のせい。そうだ、食材は?」
「ちゃんと言われたものを買ってきたよ。でも……本当にやるの?」
「うん! やっぱり妻として、料理の一つくらいできないとね!」
ここでマカロンに衝撃が走る。
最強のドラゴンが、料理だと? なんということでしょう。愛というやつは
そんなマカロンをよそに、ルナはのほほんとやりとりを見守っている。
「それじゃ、まず野菜から切ってみようかな!」
台所に立ったエリーゼが、まな板にニンジンをのせて包丁を握った。
「ていっ」
ずしゃあっ。
大気を切り裂く一撃がニンジンを粉砕し、そして家の壁を綺麗に真っ二つにした。
その先の結界をも切り裂いた衝撃波は、彼方の海も割り、さらにその先の無人島を沈めてしまった。
……。
「てへっ、失敗失敗」
「うん、初めてだから仕方ないね。最初は僕が教えるね」
「ごめ~ん」
……。
マカロンとルナは、目の前で起きた光景に、しばらく言葉を失った。
こいつぁ、とんでもねぇところにきちまったな。マカロンは激しく後悔するのであった。
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