或る記憶2

 暗い。


 寒い。


 ここには窓がない。冷たい床と壁に囲まれているだけの部屋。生まれた時から、ここが世界の全てだった。


 生きているのか死んでいるのか、わからなくなる。

 

 ここには誰も訪れない。

 食事を運んでくる誰かはいるみたいだけれど、姿を見せることはない。

 

 どうしてこんなところにいるのだろう、ということは、もう考えないことにした。

 思考は段々と鈍り、食事を摂るのもおっくうになってきた。

 より深くて冷たい闇が訪れた時、初めて――こわい、と思った。


 いやだ。この闇に飲み込まれたくない。

 でも、抗う術はなかった。闇が迫る。声の出し方を忘れてしまった自分には、叫ぶこともできない。


 誰か。誰か……助けて。


 そう願った、その瞬間。



 壁が砕け、まばゆくて暖かい光が、闇を打ち消していった。


 誰だろう。そこに立っているのは。光で姿が見えない。

 その誰かが近づいてくる。ゆっくりと、手が伸びてきた。




 そこで意識が途切れた。

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