第1話 旅立ちの日

 僕は新しい皮の靴を履いて紐を結んだ。そして荷物を詰めた袋を背負う。

「お兄ちゃん、本当に行くの?」

 妹が心配そうに訊いてくる。

「うん! 大丈夫だよ、そんなに心配しないでよ!」

「でも……」

「僕がずっと修業していたの、知っているだろ?」

 それに魔王はもういない。世界は平和になったんだ。モンスターに襲われる心配もない。

 でも、本当に魔王を倒しちゃうなんて……すごいなぁ、レオンさんたちは。魔王に致命傷を与えたのはレオンさんだったって聞いて、僕はすごく嬉しかったのを覚えている。

 レオンさんは僕の目標だ。僕はレオンさんのように、強くなりたい。

 町の道場では、お師匠さん含めて誰も僕には敵わなくなってしまった。もっと強い人のもとで修業を積ませてもらうためにも、外の世界にでなきゃいけないんだ。

 そしてレオンさんを探して、強くなった僕を見てもらいたい。


「クレス。いよいよ出発するのか」

「うん、父さん。行ってくるよ」

「そうか。なら、これを持っていきなさい」

 父さんは僕に剣を差し出した。僕はそれをゆっくりと受け取る。ずしりと重たい。鞘から剣を抜いてみる。美しい白銀の剣身が煌めく。

「父さん、この剣は?」

「昔、王国の騎士をしていた、私の父から譲り受けた剣だ。学問を志した私では扱うことができなかったものだ。今のお前になら託すことができると思って、鍛冶屋で手入れをしてもらっておいたんだ」

「……ありがとう、父さん!」

「家のことなら任せておいて。クレスはクレスの道をしっかりと歩んでね。応援しているからね」

 母さんはそう言って、僕にお弁当を持たせてくれた。

「お兄ちゃん……頑張ってね。つらくなったら、いつでも帰ってきてね」

 妹は泣いていた。僕も泣いてしまった。別れが名残惜しい。でも、行かなきゃ。


「それじゃあ、行ってきます!」

 最後は笑顔で。僕はついに家を出た。

 雲一つない、晴れ渡った青空。とてもいい気分だった。何でもできそうな気がする。

 僕の冒険が、今、ここから始まるんだ! よーし、頑張るぞ!

 僕は軽い足取りで、町を出た。

 





 ――これから起こる数々の苦難を、この時の僕は知る由もないのであった。

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