第1話 虫じゃないよ!
俺とアイは、採掘により発展した、鉱山の大陸ウォルートにやってきた。
かなり広大な大陸で、まだ未開発の土地も多い。鉱山の他は多くの遺跡が名物となっている。中にはまだ未探索のものもあり、考古学者や狩宝家たちが夢や
遺跡、といえば俺たちの仲間である”あいつ”がこの大陸にいる可能性は高い。ただっぴろい大陸だから、アイとのんびりと散策でもするか。
と、そこに。
ぷ~んと何かが耳元に近づいてくる。それになにか、ぷ~んとにおってくる。くさい。鼻がツーンとする。
「うおっ、でかい蚊!」
俺はバシっとでかい虫を叩き落とした。
「ぷぎゅう」
あ。前にもあったな、こんなこと。
「れ、レオンさん。虫じゃないです。妖精です」
アイが地面に落ちた妖精を優しく拾い上げた。これでこの妖精と会うのは3度目か。すごい偶然というか、なんというか。
「ひ、ひどいですぅ。あー! またあなたですか!! もう許しませんですよ、人間さん! えいっ! えいっ!」
俺はぽかぽか頭を殴られたが、まったく痛くない。それよりも、とてもくさいので、俺は顔をしかめた。にがい。
「まいったですか! えっへん」
「お、おう。くささにまいった」
「く、くさい? れでぃにむかって、ひどいです。ふぇ~ん!」
妖精は泣いた。すごく泣いた。涙が飛び散って俺の顔を濡らす。
「……確かに、ちょっとにおうかも」
「スライムさんまでひどいです~、うぇ~ん!」
「妖精さん、ちょっとだけ息を止めていてくださいね」
「え? あひゃああぁぁ、お、おたすけぇ」
アイは妖精を自分の中へと取り込んだ。スライムの身体がもにゅもにゅと動き、妖精がその中でぐるぐると回されている。
「これでよしと」
ぽん、と妖精がスライムの身体から飛び出す。
「おお! なんかすっきりしたのです!」
妖精はぴかぴかになっている。金色の髪もつややかに輝き、白い肌はみずみずしい。俺は恐る恐るにおいを嗅いでみたが、もうくさくなくなっていた。
「すごいです! あ、あなたさまが神ですか! 恐れ入りますです!」
妖精はアイに向かって土下座をして、あがめた。まぁ、アイの可愛さは神級だけどな確かに。
「よかったな、妖精。それじゃあな」
「まってまってまってくださいー!」
妖精がぎゅーっと俺の耳たぶをひっぱった。地味に痛い。なぜ耳たぶをひっぱるのだ。
「助けてくださいよぅ。困っているんですよぅ」
「名前も思い出せないくらいだもんな……。何か思い出せたことはあるのか?」
妖精はぷるぷると首を振る。
「記憶喪失なんですか? この子」
「そうらしい」
もしかしたら俺のせいかもしれないなんて言わない。絶対。
「あ、でも、名前は思い出せそうなんですぅ。確か、ル……る、るー……ここまででかかっているんですけど、ダメですぅ」
「何か衝撃を与えれば記憶が戻るかもしれないと聞いたことがあるぞ」
「だ、駄目ですよレオンさん。かわいそうです」
「そうか……」
「……いえ! この際、やっちゃってください! 人間さん!」
「え?」
「もう、なんだかそれしかないような気がしてきました!」
いや、あるだろう他に。これ以上、俺が殴ったりしたら、記憶どころか命を失いかねないだろうから、この手は使えない。しかし面倒なやつにひっかかっちまったな。せっかくアイと2人きりだっていうのに。
「このあたりに精霊とか妖精の住処があれば、何か手掛かりがつかめるかもしれないが……」
「あ! レオンさん! わたし、この大陸の南の森に妖精さんたちがいるって話を聞いたことがあります!」
また森か。正直あんまり森には行きたくないんだよなぁ。特に精霊とか妖精がいる森には。クインに居場所を知られたら厄介極まりない。
俺は頭をかいた。
「ま、仕方ねぇか。そこまで連れて行ってやる。お仲間の妖精がいるといいな」
「連れて行ってくれるですか! 人間さん、実はいい人だったんですね! あぢがどうごじゃいまずー!」
妖精は号泣しながらお礼を言った。大げさな。ってか鼻水飛んできてるんだが俺に。
「ちぇ。せっかく2人きりだったのにな、アイ」
「でも、わたしはこうして、レオンさんと一緒にいられるだけで幸せです」
「……俺も、幸せだ」
妖精が俺とアイを交互に何度も見る。
「らぶらぶ? らぶらぶなんですか?」
「そうだよ、らぶらぶだよ」
「それはそれは、とんだお邪魔虫でごめんなさいですぅ。わたくしのことはお気になさらず、思う存分いちゃいちゃしてください!」
気にするわ。
とにかく。はやくこの妖精を南の森の妖精に押し付けておさらばすることにしよう。そうしよう。それでアイといちゃいちゃするのだ。
俺とアイと、奇妙な妖精は南の森を目指して進むのであった。いそげ!
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