クイン、発つ(後編)

 ボクの父。精霊王は、世界樹になっている大きな大きな『実』に宿っている。それは世界の記憶だという。だから父は昔のことは何でも知っている、らしい。

「お父様。クイン、参りました」

 ボクが言うと、実に顔が浮かび上がる。いつも思うけど、不気味だ。

『おぉ、クイン。来たか』

「わたくしに何か御用でしょうか」

『うむ。お主もすでに把握したかと思うが、このところの異変についてである。何者かの手により、魔石が世界中に放たれたようだ』

「世界中に、ですか。魔王なき今、誰が魔石を?」

『それはまだわからぬ。世界各地の精霊たちに呼びかけ、その実態を調べておるところだ』

 魔王の眷属の生き残りか。いや、生き残った眷属たちは王国の地下に捕らえられているはず。まぁ、そんなことは興味ないけど。

『クインよ。森の警護を一層強化するのだ。危機に備えよ。場合によってはお主の兄弟たちを招集しても構わぬ』

 父は厳かな雰囲気で、重々しい口調で言い放つ。



「時に父よ」

『なんだい、我が娘』

「ボク、旅に出るよ」

『えぇ~、わし、今、森の警護強化しなさいっていったよね?』

「大丈夫。兄弟たちはもう召集したし、ゴーレムも配備したから。あと、アレも呼んであるし」

『しごとはやっ。それなら大丈夫だと思うけど、なんでまた急に。ま、ま、まままままままさかあのニンゲンの男のところへ!? 父、許さないよ! 父ぷんぷんだよ!!』

「違うし。世界の異変を突き止めるためだし。魔石探して、全部壊してくるし。決してレオン様を探すためじゃないし」

『ほんとぅ~に?』

「ほんとほんと」

『う~ん。娘が行ってくれるなら頼もしいけど、わし、寂しい』

「大丈夫。ボクのお人形さん置いていくし」

『ならよし!』

 相も変わらずちょろい父だ。ちょろ父だ。時々実から汁みたいなのちょろちょろでてるし。

 まぁ、レオン様探すついでに魔石は壊しておこう。


 待っているのは、もうやめた!

 ボクは、愛に生きることにした!

 レオン様は誰にも渡さない。ボクだけのレオン様。会ったら、あれもして、これもして、あれしてもらって、これしてもらって……はぁはぁ。


『娘!? よだれが滝のようだよ!? 大丈夫!?』

「は。大丈夫。いつものこと」

『えぇ~、大丈夫なの、それ』

「うん。それじゃ行ってくる。ばいばい、父」

『気を付けて行ってくるんだよ。寂しくなったらすぐに帰ってくるんだよー! ってもういないよー!』


 後ろから何か聞こえてくるけど気にしない。

 こうしてボクは、再び森から出た。

 レオン様、待っていてね。ふふ、ふふふ……うふふふふふふふふふふふふf

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