第17話 新たな旅立ち

 森は緑を取り戻したが、大陸セフィルが受けた被害は甚大だ。いくつかの町は壊滅し、生き残った人々はいない。レオナが呼んだ魔術師たちのほとんどもやられてしまった。バレットとショコラは無事だったが、亜人たちもかなり命を落としたそうだ。

 それに、リゼが行方不明。あいつの場合は空間転移が使えたはずだから、どこかに飛んで逃げたと思うが、心配だ。姉のロゼはその居場所を掴むために、色々と手を尽くしているらしい。


「レオナ、大丈夫か」

 少しやつれ、顔色の悪いレオナ。

 神殿に被害はなかったとはいえ、多くの死者が出てしまったんだ。平気なはずはない。

「もう少し落ち着いたら、死者を弔います。亜人さんたちも、よく尽くしてくれました。せめて魂は安らかに眠れるように……」

「……」

「レオン様、どうかなさいましたか?」

「いや、なんでもない」

 魔石は全て破壊した。瘴気は全て消え去った。

気になることはある。あれだけ大規模な魔法陣と魔石の存在に、レオナをはじめとする神官たちは誰一人として気づかなかったのか。スライムはあの魔法陣に引き寄せられていたのではないだろうか。それに、“今”と“前”の些細な”違い”。色々と訊きたいことはあったが……これだけ気落ちしているレオナに、俺は訊ねることはできなかった。

 疑問は残るが、単なる俺の思い過ごしだろう。レオナはたった一人で、迫りくる脅威に立ち向かおうとしたんだ。俺たちに相談することもせず、一人で抱え込んで。そして、多くのものを失ってしまった。責任の重さは計り知ることはできない。


「レオナさん。わたしたちの力が必要なら、なんでも言ってください。協力します」

 すっかり喋れるようになったアイがレオナに声をかける。

 アイの身体はスライムとなってしまったが、その強大な魔力を取り戻していた。

 人前に出ている時は魔法の力で元のアイの姿となり、過ごしている。誰もいないところや俺と2人きりの時まで魔力を使い続けるのも大変なので、その時は人型スライムの姿となっていた。

「アイさん、ありがとう。でも、大丈夫です。いつまでもあなた方に頼ってばかりはいられませんからね。それでも大変な時は、遠慮なく力を貸していただきます」

「ああ。頼ってくれ」

 レオナは少しだけ微笑んだ。


「それじゃあ、そろそろ、俺たちは行くぜ」

「はい。どうか……お気をつけて」


 俺たちはレオナに別れを告げ、神殿を後にした。

「本当に大丈夫でしょうか、レオナさん」

 アイが何度も神殿の方を振り返る。

「他の大陸からも応援が駆けつけてきているみたいだし、大丈夫だろう。レオナの人脈は広いからな」

「……そうですね」

「さて、と。これからどこに向かおうかな。どこに行きたい?」

「レオンさんと一緒なら、どこへでも行きます。どこまででも……ずっと、一緒に」

 アイと俺は見つめ合う。


 そう。

 2人の旅は、ここから始まるんだ。

 2人で色々なものを見て、一緒に笑って、楽しく世界中を旅するんだ。


 俺たちは手をつなぎ、歩き出した。

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