第14話 死線を越えろ

 爆発によって、周囲のモンスターや猛獣たちが弾け飛んでいった。

 とはいっても、俺の周りにはもう、ほとんど雑魚どもは残っていなかったが……見境なしだな、あのスライムやろうめ。

 あれだけの炎の魔法を受けたのに、全然効いてなさそうだな、ありゃ。


「おい」

『ハイ、ナンデショウカレオンサマ』

「それやめろってば」

 俺は剣を殴った。

『はっ。後遺症が』

「いいからこれ喰え、これ」

 俺は剣で、紅炎石の剣を叩いた。

『うえっ。あれか、これで炎の力を付加させて、あのでかぶつ焼き払おうってのか』

「ま、それに近いか。とにかくはやく喰え。とっとと喰え」

『へいへい』

 ゴリゴリと音を立て、剣は紅炎石の剣を喰らっていく。炎の力が宿る。

「あのスライムの“核”の場所、わかるか?」

『げふっ。ふむ……魔石っぽい気配があるな。あんまり流動してないから、狙いはつけられるぜ』

「よし。やるか。槍の形になれ」

『槍? そうか、わかった』

 剣は深紅の槍の形へと変化していく。俺は槍を握りしめた。そして渾身の力で……投げる!!

「いけえぇぇっ!」

『いぃぃやっはぁぁぁーっ!!』

 炎を纏った槍が一直線に飛んでいく。スライムに到達するまでにわずか1秒。槍はスライムを貫き、空の彼方へ。さらばだ、俺の剣よ。


『ところがどっこい、戻ってくるんだな。オレ様は』

 忌々しいったらありゃしねぇ。

「で、どうだ? 核は貫けたのか?」

 聞くまでもなく失敗だった。スライムに開いた大穴が、塞がっていく。

『すごい速さでかわされた。少しは体積削れたが、実質効いてないな』

「よし。もう一発!」

『待って、心の準備がぁあぁぁ!』

 槍は飛んでいく。スライムを穿つ。また戻ってくる。また投げる。


「……ちっ、駄目か。この役立たずめが!」

『ちょ、あの、な。難しいのよ、これ結構な』

「そろそろ真剣にどうにかしねぇと、まずいぞ。集中しろ、集中!」

『あいつ、見た目によらずとんでもねぇやつだー。すげぇ悪意の塊だな、あれ。相当人間を恨んでやがる。それに感化して、魔石の力が増幅してるみてーだ』

 人間を恨む、か。人間はモンスターたちを虐げてきたからな。勝っていたのが魔王だったら、まったく逆の立場だったろうに。だが、今そんなことを考えても仕方がない。やつを何としても止めなくては。

「”8割”でいく」

『おいおい……のかよ。今のオマエじゃ』

「やらなきゃならねぇだろう」

 やつの反応速度を上回る速度で、槍を放つしかない。

 俺は腕に力を込める。筋肉が倍以上に隆起する。心臓が早鐘を打つ。感覚が研ぎ澄まされる。自分の身体の中で、血の流れる音が聞こえる。激しい頭痛。目が眩む。

「いけっ!!」

『応ッ!』

 閃光がスライムに大穴を開ける。その先の黒い雲を貫き、陽の光が差し込む。今度こそ、やったか?


 槍が戻り、俺の足元の地面に刺さる。

『大きめに抉ったのにかわされちまった! レオン、あと一発分くらいしか炎の力がないぞ。どうするよ』

 あれでも駄目か。しかしまだ、打つ手はある。それは最後の手段だ。あと一発……放って駄目ならば、覚悟を決めてやるしかない。


 そこでスライムの動きが変わった。ぐにゅぐにゅと蠢いたかと思うと、ふしゅううと黒い煙を全身から吐き出した。かなり濃い瘴気だ。森がどろりと溶けていく。何もかもを飲み込み、溶かしつくそうとしている。森の各地から悲鳴が聞こえてくる。近くでひときわ大きな悲鳴が聞こえた。聞き覚えのある声だったような……。

 まずい。瘴気が神殿に向かっている。くそっ! あのスライムめ! やってくれる。

 俺は槍を、神殿に向かっていく瘴気に投げつけた。爆炎が瘴気を焼き払った。

 瘴気は止めたが、これで打つ手は一つしかなくなった。

 槍が剣の形に戻り、俺のところへ戻ってくる。


「“全開”でいく。俺の血のほとんどくれてやるから、お前の力を開放しろ」

『……いや、無理だ』

「なんだと?」

『力が足りねぇ。なんたって5年間、ほとんど喰らってねぇんだ。昨日打ち込まれた聖なる力だけじゃ、全然足りねぇ。オマエの血をほとんどもらったからといって、どこまでの力がでるかどうか』

「それでもやるしかねぇだろうが。アレを止められるのは、今、俺しかいねぇんだ。腕の片方でも、足でもなんでも持っていけ。力を貸せ」

『……嬉しい申し出だが、あのでかぶつを倒すだけの力にはならねぇ。今のお前の”全開”と組み合わせても、どうにもならねぇかもしれねーぞ。敵との相性が悪すぎる』

「それでもやるんだよ!!」

 アイを守るためなら、俺の命のほとんどを使っても構わない。俺は……アイと生きるんだ。一緒に、生きていくんだ。


『わかった。どうなってもしらねぇぞ』

「はっ、これくらいの危機なら、何度も乗り越えてきただろう。俺たちは」

『そうだな、相棒。じゃ、いくぜ』

「ああ」

 俺は剣の切っ先を自分に向けた。その時――。



「待ってください!!!」


 

 そこに



 そこに現れたのは……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る