第9話 時間稼ぎ

 神殿内でいち早く気づいたのは、やはりレオナだった。

 この神殿に向かい、何か恐ろしいものが近づいてきている。強大な負の力だ。

「リゼはいますか」

「ここにいるっス! なんか頭がくらくらするっスけど、これ、なんっスかね」

「これを見てください」

 水晶に投影された”それ”を見て、リゼは眉を細めた。

「こりゃあ……とんでもなくでかいモンスター? っスね。まさかこれ、こっちに向かってきてるっスか?」

「ええ。森の瘴気と、神殿の力に引き寄せられているのでしょう。リゼ、ロゼと協力して、あなたたちの氷の魔法でしばらくの間、足止めしてください」

「うへぇ。こんなバカでかいヤツ、やれるかなぁ」

「何としても止めてください。私はその間に魔導師を集めてきます」

「やってみるっス! あ、レオンさんには伝えなくていい感じっスか?」

「……レオン様とは相性が悪い敵です。魔剣の力は以前より弱いようです。敵の”核”を的確に捉えられればいいのですが、あの巨大さでは難しいでしょう」

「……そうっスね……」

 そこに何かが転がってくる。ショコラだった。


「大変にゃ、大変にゃ! レオナ様大変にゃ!」

 傷だらけになったショコラは、レオナに駆け寄った。

「ショコラ、状況はわかっています。落ち着きなさい。バレットの治療が終わっているはずですから、呼んできていただけますか」

「は、はいにゃ!」

 ショコラは再び駆け出した。

「彼らになにを?」

「亜人たちを集めてもらい、魔導師の護衛につけます。あの巨大なモンスターの放つ瘴気につられて、森のモンスターたちが活性化すると考えられます。それらを相手にしながらでは、あの巨大なモンスターに対処できません」

「それこそレオンさんの出番っスね」

「……せっかくアイさんと再会できたのです。知らせるのは態勢が整ってからにしましょう」

「了解っス! それじゃあ、頑張って一日くらいは時間稼いでみせまッスかね! 2人のいちゃいちゃはワタシが守って見せますちっくしょおぉぉぉー!!!」

 リゼは泣きながら、姉のロゼのもとへ向かって行った。


「魔王が倒れた今、どうしてこんな事態が……何か、よからぬことの前触れなのでしょうか」

 考えるのは後だ。

 レオナはバレットとショコラに亜人を集めるように伝えた後、空間転移し、魔導師たちのところへと向かって行った。

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