第7話 上陸

 異変に気付いたのは、ある船乗りだった。

 海の色が変化している部分があった。より青が深く、そして妙に輝いて見えた。船乗りは、船から身を乗り出してそれをじっと観察した。

 次の瞬間。海が伸びてきて、船乗りの身体に巻き付いた。

「ぐぎゃあっ!」

 凄まじい激痛に、船乗りは絶叫した。見る間に身体が溶けて、骨があらわになった。船乗りは自分のあばら骨を見たところで絶命した。船乗りはそのまま海に引きずり込まれていく。

 船乗りの絶叫を聞きつけた仲間たちが集まってくる。海は次々と彼らを”喰らった”。船の中の全ての人間を喰らいつくした後で、”それ”は船を取り込んで跡形もなく溶かしていった。


「な、なんだありゃあ」

 港の人々も異変に気付いた。海が生き物のように蠢き、次々と船を襲っているではないか。

 徐々に”それ”は港に近づいてくる。

「に、逃げろ! 海のバケモンが来るぞ!」

「海のバケモン? お前、なに言って……」

 海が伸びてきた。人々は何が起こっているのか理解できずに、捕食されていく。

 

 ――滅ぼせ。

 憎き人間を、すべて。喰らいつくせ。何もかも。


 人々は絶命するその瞬間、”それ”の声を聞いた。


 あらゆるものを喰らい、”それ”はさらに巨大になり、港町を包み込んでいった。


「こ、これは大変なことになったにゃ! はやくレオナ様に知らせにゃいと!」

 ショコラは追いかけてくる”それ”を振り払い、全速力で駆け出した。

 ”それ”は港町の全てを喰らいつくした後で、次なる獲物を求めて動き出す。

 

 ”それ”は絶望。

 

 あらゆる希望を奪う『厄災』となって大陸セフィルを包み込もうとしていた。

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