第1話 生まれる悪意

 それはとても小さな弱い生き物であった。昆虫や小動物を取り込み、体内で溶かすことで栄養としていた。意思というものは存在していなかった。本能のままに生きている。それだけだった。人に及ぼす害などたかが知れていたが、モンスターという種であるがために駆除されていった。

 絶滅の危機に瀕した彼らは、一つに集合することにした。小さく弱いままでは存在することができない。より強く、大きくならなければならない。”彼ら”の本能が告げていた。大きくなった彼らは、体を維持するためにより多くの栄養が必要だった。より大型の動物を探し求めるようになり、自然豊かな場所へと移動した。

 運が良いときは、傷つき、弱った人間を喰らうことができた。すると彼らの中に意思が生まれた。彼らは”考える”ことにより、より効率的に獲物を得ることができた。そうして彼らはより大きく成長していった。

 

 ある時。

 彼らは不思議な黒い石を見つけた。何かの力を感じた彼らは、それを体内へと取り込んだ。

 すると不思議な”声”が聞こえた。黒く淀んだ何かがそこにはあった。


『憎め。お前たちの住み家を奪い、お前たちを殺した人間を憎め』

『殺せ。全て喰らい殺せ』


 彼らの中に一つの感情が生まれた。それは憎悪だった。


『そうだ。憎め。全ての人間を憎め』

『人間を滅ぼしてしまえ』

『そのための力をくれてやろう』

『願え。誰にも負けぬ強大な力を』


 そうだ。力だ。力があれば、もう何も恐れるものなどない。滅びてなるものか。生きるのだ。滅びるのは人間だ。力だ。力が欲しい。

 彼らは願った。強く願った。


『願いは成就された。さぁ、ゆけ。人間たちを滅ぼしに』


 黒い感情が爆発的に膨張する。彼らの一つひとつの細胞が怒りに激しく震える。憎悪と憎悪が結合されていく。彼らは周囲のあらゆる生物を取り込み、より巨大なものへと変貌していく。


 それは巨大な悪意の塊となって動き出した。それが通った後には草木一本残らなかった。


 

 



 

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